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市民活動の“拠点”を“未来思考”する―残り10カ月、大阪NPOプラザ閉館を前に

編集委員水谷 綾
 大阪では現在、「市政改革」という嵐が吹き荒れている。大阪市は、3月に「市政改革プラン」の基本方針を発表。4月には、毎年約500億円の通常収支不足の解消のために「市役所のゼロベースのグレートリセット」と題した施策・事業の見直し案を公表し、5月にはパブリックコメントの実施というペースで急速に改革を進めようとしている。約3年前、橋下府政改革時にも、財政赤字改善のための事業見直しが進められ、様々な施策が道半ばで止まってしまう経験をしたが、今回の市政改革の波はその倍以上の速度で進んでいる感覚である。市民活動に関わる施策でも多くの改革が急激に進められつつあり、影響もかなり大きくなりそうだ。
 その橋下市長が府政を執り行っていた時期に、私たちの足元を揺るがす動きがあった。「大阪NPOプラザ(以下、ONP・大阪ボランティア協会が管理運営)の閉館決定」である。ONPは、「官設民営」方式の行政委託や指定管理者制度と違い、「官設備・民設置民営」という全国的にもユニークな方式で運営されてきた。利用されていない行政施設を有償で借りるものの、賃借料を支払う直前に賃借料と同額の補助金を受け、施設の管理運営費は貸事務所の家賃と貸会議室の利用料収入でまかなうもので、自主的な体制により、これまで10年間運営してきた。
 そのONP閉館の理由には、主に二つの理由(事情)がある。一つは、ONPの建物自体が1966年にできた古い構造物であるため、耐震性能が低い(Bランク=耐震構造指標0・6未満、0・3以上)という問題だ。国の方針では2015年度末までに耐震化工事が必要だが、現在の府の財政状況では耐震工事の予算確保が難しい。また、遊休資産を保有するだけの余裕もなく、大阪府も「財政構造改革プランにおいて、歳入確保として府有財産の活用と売却に積極的に取り組む」となっている。ただし、ONPの跡地の用途は現在のところ未定である。
 もう1点は、ONPのような拠点の維持・発展を府の責務としてこれ以上進めることはない、と判断されたことが大きい。事務所や「場」という形でNPO活動を支える機能を提供することは、府のNPO推進施策の中でも大きな役割だったわけだが、府という広域行政において既に一定の役割を果たしたとの評価を下し、2012年度末でONPを閉館するのが方針なのである。

 そもそも、「市民活動を支える拠点」の意味とは、何なのだろうか。
 社会の課題解決を目指す思いがあって、それを支える人がいても、事務所スペースやコピー機などハード面での環境維持に費用をかけられないNPOは現在も多い。また、多くのNPOは専従スタッフの数も限られ、意欲のある人が孤立しがちである。市民活動拠点はこうした組織としての脆弱さを補強する「場」であり、小さな、そして多様な活動を支える機能を提供している。
 例えばONPの場合は、2階にNPO支援機能をもった団体が集住し、1階のブースを事務所として利用する小さな団体に独自の支援をしたり、ONP内外にNPO支援のメニューを提供したりしている。事務所を構える団体が協働で実施する活動もいくつか生まれた。これらは、集住型の拠点が持つメリットである。
 集住型拠点だからこそ持ちえる〝共同〟性には、もう一つ大きな意味がある。それは、見えにくいものを「見せる力」である。
 NPOの活動の源泉は多様な価値観だ。多様な価値観は、そこに集う人たちからもたらされる。昨年度、当協会のボランティア活動希望の相談は706件あったが、そのうち203件(28%)は「何かしたい」という相談であった。「何かしら(地域)社会の支えになりたい」という、今ははっきりしないけれど「何かできれば!」という思い。その漠然とした第一歩を後押しするために、「ここなら安心」と思ってまずはコンタクトを取ってみる「拠点」の存在は大きい。つまり、拠点は単に入居者の「共益」だけではなく、将来・未来の人と活動を支える〝パブリック〟(公益的)な役割を果たしうるのだ。
 このように「拠点」の意味を改めて考えると、どのような形であれ、「場」が支える機能をこの大阪から絶やしてはならないのではないか、と強く思う。であるなら、市民活動を支える拠点として、次の展開はどうあったら良いのだろうか。
 まず一つは、事務所や拠点というハード面の環境を整える上で、「支援者」の存在を忘れないことである。NPOが社会を変えるために存在するとすれば、根源はこの点にあるように思う。〝拠点〟は「活動するNPOのため」だけにあるのではない。その活動を支えたい、できたら一緒に何かしたいと願う市民のものでもある。さらに言えば、一緒に活動を作り、そして、地域を動かす発信源になり、支援者や地域とのコミュニケーションの中継地点のような役割を持つものであってほしい。
 市民や地域の潜在的な力を引き出すという意味においては、ともに集住する「共同性」の深化を指向してはどうだろうか。例えば、特定のテーマにこだわった複数の団体で拠点を構成し、集積効果を発揮して社会にアピールするという手法も考えられる。集住による〝共同〟だけでなく、その集住する組織がさらにある同一方向に向かって動きを作る〝協働〟も、地域社会へ強いインパクトを与えることができるだろう。もしくは、産官学といった他の主体との連携による拠点の創出などもあったら、なお良いと思う。
 いずれにせよ、活動を進める人とそれらの活動を支える人をつなぎ合わせる「場」づくり、そしてその動きをもっと社会に打ち出し、より幅広い層に多様な形でアプローチする発信源としての「拠点」が、次の10年の市民活動を支えていくことになるのではないか。
 行政のお財布事情だけで、NPOの基盤を支える機能を喪失してはならないし、自分たちのまちや地域というパブリックを支え育てる不断の努力をあきらめてはならない。単なる「場所」ではなく、意志をもった市民活動支援の「場」として、新しいパブリックなランドマークを大阪に創りたい。ONP終結まであと1年もないが、「民」の力を生かす形で、多くの人の思いが集積する「場」づくりを早急に考えていきたいと思う。

【Volo(ウォロ)2012年5月号:掲載】

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