ボラ協のオピニオン―V時評―

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電子書籍(出版)のすすめ

編集委員吐山 継彦
■電子書籍(出版)の現状と特徴
 電子書籍とは、書籍をデジタルデータ化し、パソコンやタブレット端末、 携帯電話などで読めるようにしたものである。デジタルデータなので、文字情報だけでなく、動画や音声も扱えるため、印刷本では不可能なマルチメディア表現が採用されることもある。教科書などは、動画や音声も扱えると、教育効果が格段に向上するかもしれない。
 電子書籍を読む(視る・聴く)ときは、パソコンなどにダウンロードしたり、ウェブ上の書籍データにアクセスしたり、CD - ROMに落としたものを再生したりする。ちなみに、ダウンロードして読む場合は、ファイル形式に応じた専用の閲覧ソフトが必要となるが、それは無料で提供されている場合が多い。
 電子書籍のコンテンツとしては、単行本や雑誌、マンガなど、既刊の印刷本のデジタル化と、はじめから電子本として出版されたものがある。日本の場合、現状でいちばん多いのは、マンガをスマートフォンで読むケースであり、一般書の電子書籍版はまだまだ少ない。
 しかし、文字数が非常に多く表記法の複雑な日本語に比べて、英語という電子書籍に適した言語を使用する英米では、電子本の点数の多さと、アマゾンが開発した低価格端末「キンドル」の登場で、電子書籍の購読者が急増しているという。
 最近の電子出版関連の報道で興味を引かれたのは、ブリタニカ大百科事典の印刷版廃止というニュースである。百科事典のような〝重厚長大〟な刊行物はデジタルの方が便利だし、事実、辞書・事典類は電子書籍版を利用する人が多い。最近では、手帳サイズの機器に、百科事典や国語辞典など100以上のコンテンツが収蔵されているものもある。
 ボランティア/市民活動と関係が深い電子出版分野と言えば、青空文庫に代表される著作権切れ書籍出版であろう。著者が死亡して50年経てば著作権がなくなり誰でも自由に出版できることはよく知られている。しかし紙媒体では印刷代と配送費に膨大な出費が掛かることから、デジタル化して誰でも無料で読めるようにする、というのが青空文庫のコンセプトであり活動である。
 ちなみに、この活動の原型は、1971年にイリノイ大学の学生が、学校の汎用コンピュータを使って「プロジェクト・グーテンベルグ」という〝電子公共図書館〟計画を始めたことにある。著作権の切れた作品をボランティアが手入力でデジタル化し無料配布するというもので、配布方法も最初はフロッ
ピー渡しだった。やがてこの方式が世界中に伝わり、各地で独自の〝電子公共図書館〟が誕生。日本でも1997年に青空文庫が設立される。 (津野梅太郎著『電子本をバカにするなかれ/書物史の第三の革命』参照)。
 電子書籍のデメリットは、購読するためにインターネットかアプリケーションを介する必要があること、またパソコンやタブレット、スマートフォンや専用端末等の機器が不可欠なことである。そのうえ現状では、電子書籍ファイルのフォーマットがいくつもあり、専用機器や提供サービスの選択が「いさ
さか面倒くさい」ことである。 

■市民活動にとって大きいメリット
 しかし、不便さを凌駕するメリットが、制作および配布の簡便性と低コストである。印刷物ではなく、電子データ化した出版物だから、出版社や取次を通さなくても、ネット上で全てが完結する。そのため、誰でも簡単に書籍を制作し、流通に乗せることができる。もちろん、在庫を収納する大きなスペースも必要ない。   
 また最近は、使い勝手のよい電子出版(書籍)サービスがいろいろ出てきており、「デジタリンクActiBook」や「文楽」、「BCCKS/ブックス」など、驚くほど簡単に書籍の制作、配信(販売)ができるものがある。
 例えば、「BCCKS/ ブックス」では、完全に無料で専用のエディタ(編集ソフト)を使って制作し、配信(販売)ができる。有料販売の印税率も70%と破格である。デザインについてはテンプレート(ひな形)から選択する方式なので、自由度や創作性はある程度制限される。
 しかし、われわれ市民活動団体にとって、会員登録(無料)さえすれば誰でもウェブ上で簡単に電子書籍を編集・発行・販売できるメリットは計り知れない。筆者もメルマガに連載していた記事の編集を試みてみたが、BCCKSのエディタに慣れれば、思ったより簡単に電子書籍化できる、という印
象を持った。
 現在、市民セクターには、資金的にかなり厳しい団体が多いと思われる。その原因は様々だろうが、一因は行政からの補助金・助成金支出が厳しくなっていることである。また企業も、業績が悪化しているところが多く、市民セクターへの支援金も景気のよかった頃に比べると減少して行かざるを得ない。
 これらのことを考えると、市民セクターは真剣に新たな資金源を開拓する必要があると思う。考えられるのは、会費や寄付収入だが、経済不振の現在、それらが大きく伸びることは考えにくい。では、事業収入はどうだろう。「事業」と言っても、非営利団体が営利企業のような〝儲け仕事〟を企画・実践することは甚だ難しい。売れる商品があるわけでもないし……。
 NPO・市民活動団体にとって〝商品〟はミッションであり、活動そのものだ。そして、蓄積されたコンテンツであろう。例えば、数多く実施されるイベントや講座の内容、ボランティアと被災地をつなぐコーディネーションスキル、効果的なチラシや広報誌・ウェブサイトの作成技術、説得的なプレゼンテーションの仕方、効率的な会議運営の方法等々。
 これらのコンテンツは、どれも電子書籍化し出版できるものである。紙媒体でそれを行うと、莫大な費用と手間がかかり、小さな市民活動団体にとっては大きな負担となる。そこで試行する価値があるのが電子出版である。売れない紙の本をたくさん作って置き場所に困るよりは、電子書籍をネット上のアーカイブ(保管庫)に保存しておく方が余程気が利いている。団体のミッションと活動を市民文化とし
て残し、継承していくために、電子出版は大きな可能性を秘めているのではないだろうか。

【Volo(ウォロ)2012年6月号:掲載】

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