ボラ協のオピニオン―V時評―

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災害対策2法を読む 基本法改正と復興法成立

編集委員磯辺 康子

 災害対策をめぐる法律の整備で、6月に大きな動きがあった。
 災害対策基本法の大幅改正と、大規模災害復興法の成立だ。日本の災害法制は不備が多く、18年前の阪神・淡路大震災以降、多くの研究者や被災自治体が課題を指摘してきたが、東日本大震災を受けてようやく一歩前進した。
 改正法と新法には、市民活動に影響を及ぼすと思われる内容が多々含まれる。地域防災や復旧・復興にNPOやボランティアが関わることが当たり前となっている今、法の基本的な枠組みを知っておく必要があるだろう。
 法整備が進んだとはいえ残された課題も多い。その点にもしっかりと目を向けておきたい。

■改正災害対策基本法
 東日本大震災後、災害対策基本法の改正は昨年と今回の2度にわたって行われた。今回の改正は1961年の制定以来、例のない大幅改正となった。
 市民活動に関わる内容で最も注目されるのは第5条だ。「国及び地方公共団体は、ボランティアによる防災活動が災害時において果たす役割の重要性に鑑み、その自主性を尊重しつつ、ボランティアとの連携に努めなければならない」という一文が盛り込まれた。阪神・淡路大震災後の改正では、国や自治体が配慮すべき事項として「ボランティアによる防災活動の環境整備」を挙げるにとどまったが、今回は「ボランティアとの連携」をはっきりと法に位置付けた。
 今回初めて明確に打ち出された災害対策の「基本理念」の中にも、「多様な主体が自発的に行う防災活動を促進する」という文言がある。災害対策の基本として「多様な主体の協働」を掲げたもので、この理念が第5条などに反映されている。
 ただ、この法律は基本的に「国や自治体がすべきこと」を定めているにすぎない。防災会議の設置、防災計画の策定、被災者の保護などで、今回の改正では避難に支援を必要とする人の名簿作成を市町村に義務付け、消防機関や民生委員、自主防災組織などとあらかじめ共有しておくことも新たに盛り込んだ。
 注意しておきたいのは、ボランティアやNPOはあくまでも国や自治体という主体から見た「連携先」であるという点だ。ボランティアやNPOが自らの立ち位置をしっかりと持っていなければ、国や自治体に「使われる」だけの存在になりかねない。
 国や自治体の災害対策は、常に地域住民のためになるとは限らない。ボランティアやNPOは、住民や被災者の視点に立って国や自治体の動きをチェックし、時には修正を促す姿勢も求められるだろう。

■大規模災害復興法
 災害対策基本法が事前の防災や直後の対策を定めているのに対し、新たに成立した大規模災害復興法は「復興」の枠組みを示した。復興についての恒久法の制定は初めてとなる。
 これまで、復興の方針や手順は災害のたびに特別立法で定められてきた。阪神・淡路大震災では法律ができるまで約1カ月、東日本大震災では約3カ月を要した。
 立法の遅れが復興の遅れにつながったという反省から、復興の枠組みをあらかじめ定めておこうというのが、新法制定の大きな理由だ。これまで日本には「復興」について定めた法がなく、災害法制の欠陥として指摘する声も多かった。
 そういう意味で、復興に関わる法ができたことは大きな前進といえる。しかし、その内容についてはまだまだ改善の余地がある。
 災害対策基本法と同様、復興法も基本的には国や自治体が取り組むべきことを示している。しかも、これまでの災害で実施してきた枠組みを法に位置付けたに過ぎず、目新しさはない。
 法で定められたのは次のような枠組みだ。大規模災害が発生した場合、政府は復興対策本部を設置し、復興の基本方針を策定する。その内容に沿って、都道府県は復興方針、市町村は復興計画を作ることができる。自治体の機能が低下した場合、自治体が管理する河川や道路、港湾の復旧事業を国が代行できる規定も盛り込んでいる。
 復興の基本的な手続きを示しただけで、被災者の生活再建をどう進めるかという重要な点には触れていない。また、多様な主体の協働で復興を進めていくという視点も欠けている。
 関西学院大学災害復興制度研究所(西宮市)が2010年に発表した復興基本法の試案は「復興の主体は被災者」と位置付け、「自治体と市民との協働」もうたっている。こうした考え方を今後、法に取り入れていく必要がある。

■自らの役割考える機会に
 この二つの法律には共通している点がある。国の権限強化という側面だ。
 2法とも、自治体の機能が低下した場合の国の代行措置を盛り込んだ。災害対策基本法には、物資の買い占めをしないよう、首相が国民に要請できるとの規定も新設された。罰則規定はないが、国民は協力に努めるとされている。
 国の権限強化の背景には、東日本大震災で多くの自治体が職員や庁舎を失い、機能が低下したことがある。
 しかし、この流れは防災や復旧・復興の主体である被災者、被災自治体の権利を脅かすことになりかねない。国の権限を強化したからといって、災害対応がうまくいくとも限らない。阪神・淡路大震災でも東日本大震災でも、政府は当初、被害の全体像を把握することすらできず、救援や被災者支援は後手に回った。
 復興過程では地元住民が自ら地域の将来像を描く取り組みが欠かせない。復興はその地域を知る住民や自治体が中心となるべきで、地域の将来に責任を持てない中央省庁の人間や政治家が前面に出るものではない。
 こうした課題に目を向けることは、ボランティアやNPOが自らの役割を見つめることにもつながると思う。国や自治体との「連携」が法に位置付けられた今、「復興の主体」や「被災地の自治」という問題について考える機会を与えられたと捉えてはどうだろうか。

【Volo(ウォロ)2013年7・8月号:掲載】

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