ボラ協のオピニオン―V時評―

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NPOが「ブラック団体」と言われないために

編集委員早瀬 昇

■「ブラック企業」への注目
 「ブラック企業」という言葉をよく耳にするようになった。意図的・恣意的に過酷な労働搾取を行う企業をさす言葉で、元々、求人広告業界の隠語に由来するなどと言われている。
 08年に『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』(新潮社)が、昨年には『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(今野晴貴著・文春新書)が出版された。今年7月の参議院議員選挙でも、ある候補者の経営する企業が「ブラック企業だ」と批判を集め、これも影響してか厚生労働省が9月から約4000社を対象に実態解明の調査を始めた。
 この背景には公正な労働環境が崩れ出している現実がある。サービス残業、過労死、偽装請負、派遣切り、雇われ店長、名ばかり管理職、追い出し部屋……。それこそ〝ブラック〟な言葉が次々に生まれている。

■市民活動団体での労働環境は?

 ひるがえって市民活動の世界で働く人たちの環境は、どうだろうか?
 内閣府が昨年8月に発表した「NPO法人実態調査23年度版」によれば、NPO法人で働く常勤有給職員1人当たりの人件費は平均207万円。国税庁の「民間給与実態統計調査結果」では平均年収409万円だから、ほぼ半分だ。しかも平均年収の34%は150万円以下、22%は100万円以下だった。
 給与水準が低いだけでなく、時間外手当などの整備も進んでいない。NPO法人ユースビジョンが09年に行った「若年層NPO・NGOスタッフ就業実態調査」によると、回答者の85%には超過勤務手当が支給されていなかった。時間外労働自体がない場合もあるが、実労働時間は平均9・1時間だから、この実績は低すぎる。また全体の42%で昇給があるものの、55%は昇給がなく、4%は減給されたという。そういう背景からか他の職場でも働いている人が16%もいた。また厚生年金保険、健康保険の加入率はそれぞれ84%、87%で、退職金制度のある団体は22。10人以上を雇用すると就業規則の制定が必要だが、14%で規則が作られていなかった。
 実利的なメリットがないのに、こうした調査に回答する団体は、きちんとした運営に努めている場合が多い。そうした団体の調査結果であることをふまえると、実際はもっと厳しい状況だと考えられる。

■「労働者」と「活動家」の関係

 この背景には、まず財政力の弱さがある。時間外手当も払いたいし退職金制度も整備したい。しかし、財政的裏付けがないと、このような事態が起こりがちだ。
 ただし、ここで当の職員が「搾取だ」と不満を示すことは実は少ない。ある程度、厳しい労働環境であることを覚悟しつつ、進んで職員を志願している場合が多いのだ。いわば、「労働者」である以前に「活動家」として事業に取り組んでいるわけだ。
 この「労働者」と「活動家」の関係は複雑だ。そもそも「労働者」とは賃金を受け取る代償として雇用主の指揮監督下で労務を提供する者をいう。雇用主や自営業者は、働いてはいるが労働者ではない。従業員、使用人といった言葉が象徴するように、労働者とは雇用主に従属して使用される立場を指す。
 しかし、市民活動団体では、自ら課題に気づき、その解決に向けて主体的に努力する姿勢も期待される。雇われているというより、「活動に専念できる専従者として関わる」と言う方がしっくり来る。
 雇用主=組織のリーダーに対して弱い立場になりやすい職員を守るため、労働者としての保護はもちろん重要だ。しかし、保護を徹底すると、所定労働時間を超えれば時間外勤務となり、所属長の許可がなければ仕事ができなくなるなど、活動家としての主体的な関わりが制約される場合も出てくる。
 保護と規制は裏返しの関係となるが、この居心地の悪さをどう解消すれば良いだろうか?

■二つの活動ルールを整備しよう

 ここまで職員の関与だけを考えてきたが、市民活動団体には多くの市民がボランティアとして参加することも多い。上記の「活動家」という立場は、このボランティアと共通するものだ。
 そこで、市民がボランティアとして参画する場合のルールと、職員=労働者として関わるルールとを分け、図のように整理することが必要だろう。 ボランティアが団体に関わる上では、「意欲的に活動できるためのルール」が必要だ。具体的には、企画段階からの参加、必要な情報の共有、フラットな関係で議論し合える環境整備、研修の機会、職員・ボランティア間の適切な役割分担、交流の機会などを保障することが必要だ。その一方で、ボランティアには多様な参加のスタイルがあることをメンバー間で認め合うことや、それぞれの役割分担に固執しすぎず積極的に助け合うことなど、守りたいルールも皆で確認したい。
 そして、「意欲的に活動できるためのルール」は職員にも適用され、職員自身も意欲的に仕事を進められるよう配慮されなければならない。職員の活動家としての活動環境は、このルールで保障されるべきものだ。
 その上で、職員が「ディーセントワーク」(働きがいのある人間らしい仕事)ができるよう、労働法規をきちんと守った就業規則を作らねばならない。就業後や週末に活動する勤労者ボランティアとの協働を考えると、フレックスタイム制や柔軟な勤務シフトの導入が必要な場合もあるだろう。
 財政力の強化とともに団体運営上のルールを整備することで、活動しやすく働きやすい場を目指したい。

【Volo(ウォロ)2013年10・11月号:掲載】

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