ボラ協のオピニオン―V時評―

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生活困窮者に寄り添える住民・地域づくりを

編集委員筒井 のり子

■自立支援のモデル事業スタート
 昨年12月6日の臨時国会で「生活困窮者自立支援法」が可決成立した。15年4月1日から福祉事務所を設置するすべての自治体で、生活困窮者支援の事業が実施されることとなる。
 その内容としては、必須事業として①生活困窮者自立相談支援事業、②住居確保給付金の支給、任意事業として①就労準備支援事業、②一時生活支援事業、③家計が自己管理できない人への相談支援事業、④生活困窮者家庭の子どもへの学習支援--がある。
 13年度と14年度は68自治体において国庫補助によるモデル事業が実施される。15年の全面施行に向けて、今、全国の自治体で、相談窓口をどこに置くのか(どこに事業委託するのか)などの検討がなされている最中である。

■立法の背景に困窮者の急増、支援策の不備
 本法ができた背景としては、いうまでもなく、生活困窮者の急激な増加がある。リーマンショック以降加速し、年収200万円以下の勤労者が3割近くに、ひとり親家庭の貧困率は50%以上になっている(注1)。当然、生活保護受給者の数も増え続け、13年12月で216万7220人(前月比で2363人増)、3カ月連続で過去最多を更新している。また、かつては受給者のほとんどが高齢世帯、病気や障害で働けない人、母子家庭だったのに対し、非正規雇用や失業の増加に伴って、それ以外の現役世代の受給者が増え続けているという変化がある。今の日本では、誰もが家族や健康の事情によって仕事を失い、そのまま生活困窮状況に陥る可能性があるということだ。
 そのすべてを、最後のセーフティネットである生活保護制度で支えるには無理がある。そこに至るまでの生活困窮者支援の諸施策があまりにも不十分であったことが課題として浮かび上がった。
 また、増加し続ける生活困窮者の相談にのるべき福祉事務所の生活保護担当者の整備はまったく追いついておらず、1人で100世帯以上を担当している自治体もある。また非正規化が進んだことで担当者の入れ替わりが増え、相談体制としては後退しているという現状がある。
 そこで、生活保護に至る前の段階から早期に生活困窮者の相談にのり、就労支援などにより生活困窮状態からの早期自立を支援することをねらいとして本法が成立した。生活保護基準の引き下げや申請の厳格化、扶養義務の強化を盛り込んだ改正生活保護法とセットになっている点は容認しがたいが、とにかく相談機能の充実が図られるのは大きな前進といえる。

■なぜ、自分から相談しないのか?
 ところで、テレビや新聞で親子の餓死や生活困窮による孤独死等のニュースが報じられるたびに、「こうなる前に、なぜ誰かに相談しなかったのか?」「ひと言、誰かに助けを求めさえしたら、何か手だてがあっただろうに」と、感じてしまう人は少なくないのではないだろうか。
 実は、ここにこそ、今、私たちが向き合わねばならない生活困窮者自立支援の大きな課題がある。
 具体的に相談できる人間関係がない、その気力がない、あまりにも問題が大きすぎて何を相談したらいいのかわからない……。とてつもなく困った状態なのに、周りに声をあげられないという状態の人をサイレント・プア(声なき貧困、声を出せない貧困者)と表すこともある。
 相談窓口の整備をしたからといって、こうした人々は自発的にやって来ない。生活困窮は、社会的孤立の問題と密接につながっているのである。今回の事業は、ここに切り込まないと意味がない。
 自立支援相談には、主任相談支援員、相談支援員、就労支援員の3職種が設定されている。これまで福祉事務所では、「相談」といっても、ともすれば制度の条件に照らして、サービスが受けられるか否かをジャッジするだけになりかねなかった。しかし今回の新たな事業では、ジャッジするのではなく、いかに寄り添うのかが問われる。待ちの姿勢ではなく、いかにニーズの掘り起こしができるか、そして、抱え込まずにいかに地域や住民につなげられるかが大きな鍵になる。

■「課題の分節化」で寄り添える隣人づくり
 このように、相談窓口のスタッフに求められるのは、寄り添う姿勢だ。しかし、長年、路上生活者の支援をしてきたスープの会世話人の後藤浩二氏は、「相談員や事業所が寄り添うだけではなく、寄り添える住民づくりをすることが重要だ」と言う(注2)。
 路上生活者など生活困窮者の多くは、地域の中で他の住民との関係が切れていたり、緊張関係や対立関係に陥ったりしやすい。ゴミ屋敷などはその典型である。そのような状態で「生活困窮者の支援を」と言っても、住民は戸惑いこそすれ、積極的な関わりは期待できない。
 そこで、後藤氏は、「課題の分節化」を試みることが必要と言う。たとえばゴミ屋敷の住人に、「何か困っていることはないか」とたずねても、おそらく「とくにない」と答えるだろう。しかし、それはけっして危機感がないのではなく、自分でもどうしたらいいのかわからない状態なのだ。そうした状態のことを「コップに水がいっぱい入っている状態。じっとしていないとこぼれてしまう」と表現した人もいる。
 しかし、ちょっとした世間話など本人との対話を重ねていくと、徐々に本人の生活者としての語り(家族のこと、過去の自分など)が生まれ、そこから困りごとが見えてくる。すると、具体的なサポートを周りに呼びかけることができる。そもそも生活困窮とは、小さな困りごとが積み重なってどうしようもない状態に陥っているのであるから、逆に、その一つひとつの困りごとを分けて考えることで、多様な立場の人の強みを生かした関わりを可能にすることができるというのである。
 生活困窮者の「相談」が生まれるまでに、地域で暮らす私たち一人ひとりの関わりが大きな意味を持つことを心に刻みたい。そして、本事業が単なる窓口整備に終わることのないよう、市民として注視していくことが求められている。

(注1)社会保障審議会生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会報告書(13年1月25日)より
(注2)「全国ボランティアコーディネーター研究集会2014」における分科会(14年2月22日)より

【Volo(ウォロ)2014年3月号:掲載】

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