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法人税減税、NPO には増税!?

編集委員早瀬 昇

■経済の地球規模化で法人税減税競争
 冷戦終了後、それまで東西ブロック内で完結していた経済のグローバル化が加速。企業は国境を越えて活発に活動するようになり、国家間での企業誘 致競争が進み、法人税の切り下げ競争が起こった。日本の法人税は80年代までは他国とほぼ同水準だったが、90年代にアジアや欧州で法人税の引き 下げが進み、日本も徐々に減税してきた。しかし今、アメリカを除くと法人税率の高い国になっている。
 日本の法人実効税率は35・64%(東京都)。アメリカは40・75%(カリフォルニア州)でさらに高いが、フランス33・33%、ドイツ 29・59%、中国25%、韓国24・2%、イギリス24%、シンガポール17%と、いずれも日本より低いのが現状だ。
 そこで「日本企業が国際競争で不利になっている」「このままでは企業が日本から他国に移ってしまう」といった産業界の声を受け、安倍政権は数年 内に20%台への法人税減税を行う方針を決めた。

■法人税減税でNPOにとばっちり?
 ただし、法人税を1%減税すると、約4700億円の税収が減るとされており、代替財源の確保は不可避だ。
 そこで政府税制調査会では、社会福祉法人が実施する介護事業や保育事業の非課税扱いを廃止するなど非営利団体への課税強化も検討を始め、以下の ように市民活動に関わる検討もなされている。
①公益性のある非営利法人は原則非課税だが、営利企業と競合する事業は「収益事業」として課税される。この収益事業(現在34業種)の範囲を拡大
②非営利法人に適用されている軽減税率を企業の税率に近づける
③認定NPO法人の「みなし寄付金」(収益事業の資産を非収益事業に移すと収益事業の損金とみなす制度)の廃止
④公益法人や社会福祉法人の利子等の金融資産収益への非課税の廃止
⑤企業が認定NPO法人等に寄付した場合の損金算入限度額の見直し、などだ。
 さらに与党税制調査会でも
⑥認定NPO法人等への個人寄付は税額控除(納税額から直接控除)と所得控除(課税所得から控除)の選択制だが、これをどちらかに一本化するかどうか
を昨年末に懸案として挙げている。

■もしNPO関連増税がなされたら……
 もしこれらの増税策が実施されると、市民活動は大きなダメージを受けることになる。
 ①②は課税強化であり、③は利益の上がる事業によって赤字の公益事業を進める体制が取りにくくなり、さらに事業収入中心のNPOが市民の共感を 得ていこうとする誘因を失わせてしまう。みなし寄付金が適用される認定NPO法人になるには3000円以上の寄付金を100人以上から得る必要が あり、この要件は事業型NPOが市民に共感される団体となる動きを後押ししてきた。その動きが止まってしまうからだ。また④は助成財団の運営を圧 迫し助成金の減少につながり、⑤も企業からの支援を抑制する。
 ⑥も平均的な所得の人々にとっては控除額が多い税額控除がなくなりかねず、せっかく高まりつつある市民の寄付への意欲を萎えさせてしまう。

■まず企業課税の歪みを正すことから
 日本では企業の73%が法人税を納めておらず、この率は4割台にとどまる英米や韓国に比べて極めて高い。黒字でも過去の赤字分で納税を免れる例 が多く、各種の控除制度もあるためで、一部の企業に負担が偏っていると問題となっている。
 その上、税金に社会保険料負担も加えた社会的負担では、日本の企業負担は他国に比べて重いどころか逆に軽いという指摘もある(『日本の企業』中 公新書)。
 むしろNPOへの企業寄付の損金算入限度額は米国の4分の1程度に抑えられているなど、NPOの活動を促進する税制には、まだまだ課題が残って いる。
 結局、法人税減税の代替財源は企業課税の歪みを正すことで確保するべきで、NPO活動促進税制は、さらに充実させるのが本来のあり方であろう。

【Volo(ウォロ)2014年6・7月号:掲載】

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