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「自助・互助・共助・公助」論の危うさ―介護保険制度改革を前にして

編集委員牧口 明

 介護保険制度が発足して来年で満15年。それにあわせて現在、制度の大改革がおこなわれようとしている。そのポイントは、団塊の世代の全てが 75歳の後期高齢者入りする2025年を目標年度とする「地域包括ケアシステムの構築」である。多くの問題があるこの構想の中で私たちボランティ アや市民活動の立場から注目(警戒)しなければならないと思えるのは、地域包括ケアシステムの五つの構成要素(①)の一つ「生活支援・福祉サービ ス」事業において、自助と互助が異様なまでに強調されていることである。
 曰く、「支援を必要とする軽度の高齢者が増加する中、生活支援の必要性が増加」するので、「ボランティア、NPO、民間企業、協同組合等の多様 な主体が生活支援サービスを提供することが必要」である。また、高齢者自身も、「社会参加・社会的役割を持つことが生きがいや介護予防につなが る」ので、生活支援の担い手として参加することが必要である。
 このような認識に立って、「ボランティア等の生活支援の担い手の養成・発掘等の地域資源の開発やネットワーク化などを行う」生活支援コーディ ネーターを配置するというのである。
 ここで言われている生活支援の内容は欄外注(②)の通りであり、これらの取り組みを市民・住民が自発的におこなうことには必ずしも異を唱える必 要はないかも知れない。しかし、それを政策化して、本来行政(国)がおこなうべき施策を放擲して「鉦や太鼓」で称揚するとなると話は大分違ってく る。
 この点に関して実は、気になる動きがここ数年、厚生労働省を中心に広がっている。それは、従来社会福祉や社会保障の分野で使用されてきた「自 助・互助・公助」あるいは「自助・共助・公助」という枠組みを組み替え、用語の定義を変更しようとする試みである。
 この動きが顕在化したのは2006年5月に出された「今後の社会保障の在り方について」(③)で、そこでは、枠組みとしては従来からの「自助・ 共助・公助」を用いながらも、その中での共助の意味を単なる助け合いでなく、「リスクの分散システム=社会保険」として、従来は「公助の一形態」 とされてきた社会保険を共助と位置づけることで、社会保険及び共助の意味づけを変更したのである。この変更は、以後、厚生労働白書等にも引き継が れて今日に至っている。
 このような共助の意味づけの変更をさらに推し進めているのが、今回の介護保険改革と深い関わりを持つと思われる地域包括ケア研究会(④)の報告 (2009年、2010年、2013年)で、当初より「自助・互助・共助・公助」の枠組みを提示し、「互助=インフォーマルな相互扶助」「共助= 社会保険のような制度化された相互扶助」としている。
 この研究会報告で注目すべきは、昨年の報告書の中で「少子高齢化や財政状況を考慮すれば、(共助と公助の=筆者挿入)大幅な拡充を期待すること は難しいだろう。その意味でも、今後は、『自助』『互助』の果たす役割が大きくなっていくことを意識して、それぞれの主体が取組を進めていくこと が必要である」と述べられていることである。
 つまり、前述の地域包括ケアシステムにおける自助や互助の強調は、そのような文脈の中で語られているということなのである。
 今後、全国のボランティアセンターや市民活動センターに、地域包括ケアシステムの中核組織と目されている地域包括支援センターから「ボランティ アの発掘」や「地域資源の開発」などについての協力依頼が持ち込まれることになると思われるが、安易な協力は公的サービスの後退を助長し、高齢者 の生活を脅かしかねないことを認識しておきたい。

①「医療・看護」「介護・リハビリテーション」「保健・予防」「生活支援・福祉サービス」「住まいと住まい方」の5つがあげられている。
②見守り、安否確認、外出支援、買物・調理・掃除等の家事支援、などのことであり、地域サロンの開催なども含まれる。
③小泉内閣で官房長官の私的懇談会である「今後の社会保障の在り方に関する懇談会」が出した報告。
④厚生労働省の「老人保健健康増進等事業」の助成事業として2008年度にスタートし、以後、同様の助成を受けて第2次、第3次の研究会が継続さ れてきた。事務局は三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が務めている。厚生労働省のホームページにその報告書が掲載されている等、厚生 労働省とのつながりは深いように思われる。

【Volo(ウォロ)2014年6・7月号:掲載】

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