ボラ協のオピニオン―V時評―

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NPOの政治活動について

ボランタリズム研究所 運営委員長・関西学院大学 教授岡本 仁宏

■選挙にどんなかかわりを持ちましたか?
 今回の選挙にNPOはどのように関与したのだろうか。
 「選挙は政治家同士の泥仕合で我々は関係ない」?「NPOは政治に関わってはいけないから関係ない」?
 そんな声が聞こえないだろうか。特定非営利活動法人(特活法人)の理事長が偽名で政治的議論をしたことが問題となったが、その際、「特活法人は政治活動をしてはならないと
法に書いてある」などという発言が識者やブログの中であふれた。正直なところ、驚くべき無知で開いた口がふさがらない。

■NPOにとって政治活動は重要な活動
 NPOやボランティアは、しばしば政治の問題に直面する。環境保護団体は、豊かな自然海岸を破壊する開発計画に直面するかもしれない。障がい者支援団体 はバリアフリーな公共施設やまちづくりを、自殺遺児の支援団体は自殺防止のための政府政策や社会の変化を、高齢者介護事業団体は人材確保ができる介護報酬 の向上を求めたりする。
 本気で自分たちのミッションを実現しようとすれば、政府の政策や社会の振る舞いを変えたいと思うことは自然だ。しばしば、NPOは、力がなく自分たちの 状況を訴えかけられない人々(さらには、物言わぬまま消え去ろうとする生き物たち)の立場を代弁して声をあげる。そういう貴重な社会的政治的役割を、 NPOはこれまで世界中で果たしてきたし、今も果たしている。

■NPOは政治活動をしてはいけない、という真っ赤なウソ
 NPOは政治活動をしてはいけない、と言われることがあるが、真っ赤なウソである。日本国憲法は結社の自由や表現の自由を認めており、自由に団体を形成 し政治活動を行える。特活法人や認定特定非営利活動法人(認定特活)、一般社団法人・一般財団法人や公益社団法人・公益財団法人も、政治活動は禁止されていない。ただし、制限がある。この 制限を禁止と取り違えている場合があまりに多い。

■「政治活動」という場合、四つの活動を区別することが必要だ。
1.「政治上の施策」に関わる活動(政策推進・反対の活動、アドボカシー、ロビイング等)
2.「政治上の主義」に関わる活動
3.政党の支持や反対に関わる活動
4.候補者の支持や反対、つまり選挙に関わる活動(つまり選挙運動)

 一般的に言えば、法人格を持つNPOは、1を全面的にできるが、2、3、4の順に次第に強い規制を受ける。特活法人はもちろん、認定特活でも、1、つま りアドボカシー等をすることは、団体の目的としても活動としても規制なく自由にできる。2、3、4も特活法人は制限はあるが禁止されてはいない。NPO関 係者もだが、行政職員でもはっきり分かっ ておらず、単に「政治活動は禁止」ということもある。
 新公益法人については、政治活動の規制ルールが明文化されていない。したがって禁止されていないと言えるが、逆に公益認定等委員会などの裁量による示威的介入や団体による自己規制強化の可能性がある。
非常に問題が大きい。

■「アドボカシー」を「政策提言」と訳すのは間違い
 日本のNPOは、アドボカシーが弱く政策的影響力が弱いとされている。行政や企業との「協働」と言いながら、独立したアドボカシーができる力を持たないと結局指示待ちサービス機関になってしまう。
 ちなみに、「アドボカシー」を「政策提言」と訳すのは間違いだ。advocacyは「提言」だけでなく、政策的争点についての反対や推進の活動を含む。「提言」と訳すと、アドボカシーは争点をめぐる活発な政治活動の一形態であることが理解できない。

■政治のアリーナ(領域)を作りかえる法制度としての特活法人法と新公益法人法
 政治活動と言えば、プロの政治家による選挙と政党政治しか思い浮かべら れないとすれば、それこそ日本の政治の世界が狭すぎることの証明である。市民社会が、日常的に説得力ある有意義な政治活動を行える力を付けることは、よい社会的変化をもたらすために不可欠だ。特活法人法や新しい公益法人法は、政治のアリーナ(領域) を作りかえ得る画期的な法体系の出現であることを確認したい。

【Volo(ウォロ)2014年12月・2015年1月号:掲載】

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