サービスの担い手、本当にいるのか
5月に入った頃、某県のボランティアセンターに、複数の公立高校の校長から立て続けに相談が入ったという。内容は、障害のある生徒のトイレ介助 等を担ってくれる人を紹介してほしいとのこと。これ自体は、20年以上前からある相談だ。
ただ違うのは、予算があって謝礼を出せるというのだ。にもかかわらず、チラシやホームページで募集してもどうにも見つからない。4月から約1カ 月は同性の教員が介助してきたが、限界に来ており、ボランティアセンターへの相談に至ったらしい。
その県では、数年前から障害のある生徒の高校生活をサポートする学校生活支援員(学習支援員、介助員)を配置する制度ができている。介助員の場 合、1回5000円という予算(15年度は8890回分)が組まれている。別途ボランティア保険料(55人分)も積算されていることから、仕事ではなく、位置づけはボランティア活動になるようだ。
■制度化され予算はつくが……
制度化され予算もついたが、肝心の担い手が見つからない……こうした現象は、実は最近さまざまなところで起きているのではないか。
折しも6月8日に、厚労省から、介護予防・日常生活支援総合事業(以下、総合事業)の新たなガイドラインが発表された。この事業は、12年の介護保険法の改正で介護予防事業の中に位置づけられたものだが、15年4月施行の同法の改正によって「新しい総合事業」へと発展的に見直されることになった。3年間の移行期間を経て、18年から完全に市町村事業として実施される。
要支援者の多様なニーズに対し、多様なサービスを提供することで生活支援を充実させようとする仕組みであり、「住民主体のサービスの利用、認定 に至らない高齢者の増加、重度化予防によって結果として費用の効率化を図る」というものである。ボランティアの参加も大いに期待されており、何らかの予算がつくことも考えられる。
■人口・就業構造踏まえ議論を
「ボランティアによる生活支援サービス」と聞くと、すぐに思い浮かぶのは1980年代である。当時は、介護保険制度はもちろんのこと、公的な在宅保健福祉サービスはほとんど整備されていなかった。 その中で、介護等に悩む人々を”放っておけない”という思いから、40~60代の女性を中心に、家事援助サービスや外出介助サービスなど、地域での暮らしを支える多様なボランティア活動が活発に展開されていった。日本におけるボランティアのイメージが、「若者」から「中高年の女性」に転換した時期である。
それから30年。果たして、今も同様に地域に担い手はいるのだろうか。
総務省によれば、ボランティアが活躍した80年代は、夫婦のうち男性が主な働き手となる片働き世帯1114万世帯に対し、共働き世帯は614万世帯だった。いわゆる専業主婦といわれる層がたくさんいたわけだ。しかし、共働き世帯は断続的に増加し、それが97年には共働き世帯数949万に対し片働きが921万世帯になり、以後その傾向は増大し続けている。つまり、昼間に自由になる時間がある人々が80年代と比べると激減しているのだ。新総合事業では”元気な高齢者”の参加も期待されているが、団塊の世代はあと10年で75歳を迎える。
多様な人々のボランティア参加、住民同士のつながり、自らの介護予防等はいずれも重要なことであるが、「サービスを担う人材」については、人口構造、就業構造の変化を踏まえたより現実的な議論が求められるのではないだろうか。
【Volo(ウォロ)2015年6・7月号:掲載】
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