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「休眠口座活用制度」導入の条件

編集委員早瀬 昇

 「休眠口座」をご存じだろうか。銀行なら10年、ゆうちょ銀行だと5年間、引き出しや預け入れなどの取引がなされていない”眠っている預金”のことで、毎年、新たに約500億円から800億円も生まれていると言われている。全国銀行協会などの規定で、上記の預金は金融機関の収入として扱われているが、通帳や印鑑をもって窓口に行けば、いつでも払い戻しできる。もっとも、時間が経ってから払い戻される預金はそう多くないようだ。

■休眠預金活用法案の骨子まとまる
 この「休眠預金」を広く社会課題の解決のために活用しようという構想が、実現にむけて動き出した。1993年にアイルランドで始まり、イギリス、韓国でも既に実施されている仕組みだが、これを日本でも導入しようと昨年4月に活用推進議員連盟が発足。議連では法案の骨子をまとめ、今年5月から6月にこの案に対するパブリックコメントも募集された。

 その法案骨子によると、具体的には以下のような仕組みになる。

①制度開始後に「休眠預金」となった預金(10年以上引出しや預入れのない預金)を預金保険機構に移管(口座自体は金融機関に残る。休眠預金となっても、自身の預金であることが証明できれば、いつでも引き出せる)。

②預金保険機構は、事業計画の策定、資金分配団体の調整、休眠預金の分配などを行う「指定活用団体」(総理大臣が指定)に「休眠預金等交付金」を交付する。

③内閣府に「休眠預金等活用審議会」を設置し、基本方針や基本計画等を審議。その答申を受け、内閣府が指定活用団体を監督する。

④指定活用団体は、民間公益活動などに助成・貸付・出資を行う「資金分配団体」(全国各地のコミュニティ財団やNPOバンクなど)に、助成や貸付を行う。

⑤資金分配団体は、成果目標などに着目しつつ公募で選定した現場の団体に助成や融資を行う。

 なお骨子案では、この資金が活用される事業は「行政が対応することが困難な社会の諸課題の解決を図ることを目的として、民間の団体が行う公益に資する事業」とし、具体的には生活困窮者などの支援事業、子ども・若者の支援事業、困難な状況に直面している地域の支援事業、その他内閣府令で定める事業としている。

■減らすことで納得される資金
 このような形で、毎年多額の資金を市民団体などが活用できるようになれば、社会課題の解決に大きな変革を生み出すことになるだろう。民主党政権下で実施された「新しい公共支援事業」では2年間に87・5億円が市民活動の推進に投じられたが、今回はそれを大きく上回る可能性があるし、また成果重視の活用先選考という仕組みの影響も考えられるからだ。

 ただし、この制度を円滑に運用するには必須の条件がある。それは、休眠預金が新たに生まれないよう可能な限り努力し、その運用の透明化も徹底することだ。

 元来、休眠預金は、「資金の本来の所有者に、本制度に資金活用を託す”意志”がない」資金だ。いわば「忘れ物」のようなものだから、極力、減らさなければならない。たとえば、休眠預金が生まれる主な原因の一つとして親が子ども名義で開設した口座が相続時に気づかれない場合があるが、新たに導入されるマイナンバー制を活用して、この種の「忘れ預金」を減らすのも一方だ。

 そうした努力を尽くしても、それでも残った休眠預金を社会的に活用するということでこそ、市民の納得が得られることになる。

 支援先の共感のもとで託される寄付と違い、いわば機械的に社会的資金となる今回の仕組みだけに、多くの人々に納得される状況を作ることが不可欠だと言えよう。

【Volo(ウォロ)2015年8・9月号:掲載】

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