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真の危機は”阿米” 自ら憲法を問い直そう

編集委員増田 宏幸

 昭和39(1964)年生まれの私は高校生の頃、日本という国に極めて批判的だった。大きな理由の一つが日本国憲法、特に9条だ。憲法で武力行使の放棄と戦力の不保持をうたいながら、現実には軍隊そのものである自衛隊が存在する。そんな国のあり方が、ずるいオトナの「本音と建て前」を象徴しているように思え、反抗期だった頭と心に受け入れ難かったのだ。9条に罪はないが、9条は欺瞞の象徴でもあった。「憲法に現実を合わせるか(自衛隊の廃止)、現実に憲法を合わせるか(9条2項の改廃)、どっちかだろ!」。その思いは、自分がずるいオトナになった今もさほど変わっていないかもしれない。

 そんな目で安全保障関連法案の審議を見た時、頭を離れなかったのは「違憲か合憲か」、あるいは「戦争抑止か戦争への道か」という二項対立への違和感だった。この法律は明らかに違憲であり、私も反対だ。しかし、違憲というなら既に違憲状態であり、解釈改憲もとうの昔になされていた。違憲か合憲かが本当に主たる論点だろうか?

 もう一つ、法律が戦争を遠ざけるのか、近づけるのかという点についても、現状ではさほど変わらないだろう、というのが実感だ。自衛隊と米軍の一体化は運用面でずっと進行しており、法律は現状を追認した(表に引っ張り出した)ものとも言える。毎日新聞は9月23日の朝刊1面で、イラク戦争後の復興支援でバグダッド空港上空を飛んでいた空自輸送機から「今、攻撃を受けています」という報告があったことを明らかにしている。記事は「こうした事実は活動中はすべて伏せられた。事実上、交戦状態の中で活動していることが発覚すれば、法律上の『非戦闘地域』が机上の空論であることが明るみに出るからだった。(中略)その実態は、米兵と米軍関連物資の輸送が中心だった」と続く。自衛隊は既に米軍の兵站を担っていたのである。

 法案の採否にかかわらず、なお考えるべきは「日本の安全は何によって保たれているのだろう」という問いと、米国との関係、の2点ではないか。前者については、「自衛隊と日米安全保障条約」だけでも「憲法9条に基づく平和主義」だけでもなく、経済力や対外援助を含む外交努力、文化の発信力、NGOや企業による民間活動などさまざまな要素があるだろう。更に言えば、人権や「もの言う自由」を守る市民力、健全な社会の力こそが、日本の安全と世界平和への貢献を支える基盤と言っていいかもしれない。だから、例えば「NGOがテロの標的になる」という懸念が示された場合、それは法律のデメリットの一つとしてではなく、米軍への協力とNGO活動のどちらが、より「日本が信頼され、結果として安全であり、世界の平和に資するのか」という根本的な問いかけとするべきではなかったか。

 2点目の日米関係について言えば、日本の「主体性」が最大の懸念だ。イラクに大量破壊兵器がなかったにもかかわらず、日本は戦争を支持し、協力した。自前の判断材料がなかったからだ。今後の米軍支援でも状況は変わらないだろう。成立の過程を見ても、この法律には【阿米(あべい)・米国に阿(おもね)る】の側面があり、法律そのものより、米国に反論したり拒否したりするフリーハンドを持ち得ないことが問題だ。安倍政権だけでなく、【阿米政権】が続く限り状況は変わらない。「米国の戦争に巻き込まれる」真の危機は、ここにあると思う。

 そんな状況が進み、顕在化した今だからこそ、私は日本人が主体的に改憲を考えるべきだと思う。日米安全保障条約に反対した60年、70年の安保闘争は激しい盛り上がりを見せたが、ほぼ半世紀を過ぎた現在、自衛隊と安保条約の存在に疑義を呈する声はほとんど聞かれない。広範な市民のうねりが起きた今回も、自衛隊と安保条約を是認した上での法案反対だったと思う。だが仮に可決成立していなかったとして、議論はそこで終わりだろうか。

 軍としての自衛隊の存在を認めるなら、9条2項を変えるべきではないか。自衛隊を真の専守防衛に限定し、「米国の戦争」に巻き込まれないようにするなら、安保条約を破棄すればいい。沖縄の基地問題も解決するし、今回の法律も大部分意味を失う。一方で周辺諸国との関係を含め、米軍の軍事力がなければ不安だと言う人もいるだろう。多くの人が真剣に憲法や戦争と向き合ったこの機会を無にせず、私たち一人一人がどうする、どうしたいかを考え、憲法を見つめ直すスタートにしなければ、と思う。

【Volo(ウォロ)2015年10・11月号:掲載】

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