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市民活動の政治活動規制をめぐる誤解:さいたまサポセン直営化条例によせて

関西学院大学 法学部教授・大阪ボランティア協会 ボランタリズム研究所 運営委員長岡本 仁宏

 さいたま市民活動サポートセンターは、さいたまNPOセンターが2007年以来の指定管理者である。しかし、この10月に直営化条例が可決された。「政治活動」をしている登録団体などがある、というのが条例の主たる提案理由だ。これには日本NPOセンター始め全国50以上の中間支援団体から抗議の声が挙げられている。少なくとも三層の重要な問題がある。

■条例についての誤解
 サポセンの根拠条例の一つ「さいたま市市民活動及び協働の推進条例(以下条例)は、「市民活動」の定義から、「政治上の主義を推進し、支持し、又はこれに反対することを目的とする活動」「特定の公職の候補者(当該候補者になろうとする者を含む。)若しくは公職にある者又は政党を推薦し、支持し、又はこれらに反対することを目的とする活動」を除いている。
 ここでいう「政治上の主義」は、「政治上の施策」と対比された法律用語だ。「『政治上の主義』とは、政治によって実現しようとする基本的・恒常 的・一般的な原理・原則をいい、自由主義、民主主義、資本主義、社会主義、共産主義、議会主義というようなもの」、「『政治上の施策』とは、政治 によって実現しようとする比較的具体的なもの、例えば公害の防止や自然保護、老人対策等」というのが有権解釈である。つまり直営化提案議員が挙げ ている原発反対などの政治活動は「施策」への反対であって条例上「市民活動」から除外されていない。行政がちゃんと対応すれば、これで問題の決着 はつく。

■条例自体もおかしい
 しかし、実はこの条例にも問題がある。条例は税制優遇などに関係ない市民活動団体すべてに認定特活水準の政治活動禁止を求めている。
 条例の文言は、特活法の規定を援用している。特活法では、「政治上の主義」の推進等を法人の「主たる目的」、政党・選挙活動を「目的」とすることができない。つまり、主義の推進等も「従たる目的」であれば可能、さらに政党・選挙活動を含め「活動」は行える。団体の「目的」として掲げることと「活動」することとは異なる。他方、認定特活法人は、「政治上の施策」の推進等の「活動」はできるが、「主義」推進等は「活動」自体が禁止されている。
 実は、このような条例は全国にある。本来、地方自治法244条は「正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない」と 定めており、さらにこの「正当な理由」も「明らかに差し迫った危険の発生が具体的に予見されること」が必要という強い限定解釈が定着している(注 1)。条例は、市民の「表現の自由」「結社の自由」を制限するものであり憲法違反の可能性もある。抑圧的条項が特活法の誤解・無理解によって市民活動「推進」条例に滑り込んでいる。

■特活法の規制も問題だ
 さらに、そもそも特活法上の「政治上の主義」「政治上の施策」の区別自体にも問題がある。
 「政治上の主義若しくは施策」という一体表現は、戦 後間もない48年に政治資金規正法に導入された。その後、52年破防法審議の際、答弁上「主義」「施策」は区別されたが条文自体は「政治上の主義若しくは施策」一体のままであった。この当時からのあいまいさの指摘にもかかわらず、主義・施策の区別が法文上98年特活法に導入された。
 しかも、当初の「社会主義、資本主義、あるいは議会主義であるとか、または無政府主義」(52年)などの例示に特活法審議では「自由主義、民主主義」まで加えられ(97年)、単に「主義」が付けば憲法上の基本原則を含めて無制限に広げられる可能性を持ってきた。
 環境主義や平和主義も「主義」が付く。主義・施策の区別はあいまいで専門家にも、当然一般市民にも分かりにくいし、解釈次第で大きな危険性を持つ。この分かりにくさは、今回の問題にも影響している(注2)。
 条例を作る議員の無理解を追及することは必要だ。しかし、「NPOの政治活動は禁止」などという誤解を許してきた市民セクターにも責任がある。さいたま市民活動サポートセンター問題は、他人ごとではない。


(注1)1995年泉佐野市民会館事件最高裁判決等。
(注2)ちなみに、公益法人にはこのような政治活動規制はまったく存在しない。

【Volo(ウォロ)2015年12月・2016年1月号:掲載】

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