社会福祉法人制度改革 ボランティア・NPO関係者にとっての意味
社会福祉法人をめぐる大きな改革が進行中である。2016年3月末に社会福祉法の改正法案が成立し、17年4月1日からの施行(一部は16年4月1日から)の運びとなった。
法改正の大きなポイントは、社会福祉法人制度の見直しである。その内容は、①経営組織のガバナンスの強化、②事業運営の透明性の向上、③財務規律の強化、④地域における公益的な取組を実施する責務、⑤行政の関与の在り方、の5点である。
社会福祉法人の制度改革が議論されるようになった背景には、大きく三つの要因がある。まず、一部の社会福祉法人の不祥事が大きく問題になったことである。たとえば「東京あそか会が役員経営のファミリー企業へ8億円流用」という事件を記憶している人も多いだろう。第二に、過剰な内部留保について問題視されたことである。ただし、これについてはその算出方法が財務省、厚生労働省、業界団体で異なっていたため混乱を招いた側面もある。第三に他の経営主体(営利法人やNPO法人)とのイコールフッティング(足並みをそろえる)の問題である。社会福祉法人は法人税や消費税、事業税等が非課税優遇されているが、内閣府の規制改革会議でも「介護・保育分野においては経営主体のイコールフッティングを確立すべき」という提言もなされている。社会福祉法人が非課税優遇されている正当性が改めて問われるようになったわけである。
そもそも社会福祉法人の誕生は、51年の社会福祉事業法(現在の「社会福祉法」)の制定・施行に遡る。当時は、敗戦による海外からの引揚者や戦災孤児、身体障害者、失業者、生活困窮者の激増という問題に直面しており、行政だけでなく民間資源の活用が必要とされた。そこで憲法89条で禁止された民間社会福祉事業への公的助成等が、社会福祉事業法で規定された社会福祉法人を「公の支配に属する」組織と解釈することで道が開かれた。以後、50年間、措置受託を中心に社会福祉事業の主たる担い手として福祉サービスの安定供給に寄与してきた。しかし、その反面、民間組織としてのボランタリーな姿勢が弱くなり、「新たな福祉課題に対して、社会福祉法人の動きが消極的」との批判もなされるようになっていた。
今回の改正では、ガバナンスの強化として、すべての法人に「評議員会」の設置が義務づけられた(それまでは任意)。社会福祉法人には税金(国民のお金)が使われているので、国民の一部に評議員になってもらい、その使い方を評価することで理事や理事長への牽制機能を強めようという意図である。ちなみに某自治体では、市内52法人のうち27法人が新たに評議員会を設置する必要があるという。加えて委員の選び直しが必要な法人もあるため、100名以上の評議員候補者が必要となる。その人材をどう確保するのか?
また、すべての法人に「地域における公益的な取組」が義務づけられることとなった。生活困窮者などの福祉ニーズに対応することで存在感を示し、営利法人等との差異を図ろうとするものである。「公益的な活動」として、様々な展開が考えられるが、これまで地域との関わりが薄かった法人は大変戸惑っている状態である。
このように、今回の社会福祉法人改革は、社会福祉法人だけで自己完結できるものではない。福祉課題や地域課題に取り組んできたボランティアやNPO関係者が、「評議員」として経営に参画することは、非常に大きな意味を持つ。また、社会福祉法人のスタッフと連携・協働することで、より地域ニーズに合致した「公益的な活動」を地域に生み出すことができるだろう。今回の改革を地域の福祉問題解決にどのように活かせるのか、社会福祉法人関係者だけでなく、ボランティア・NPO関係者も問われているように思われる。
【Volo(ウォロ)2016年10・11月号:掲載】
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