ボラ協のオピニオン―V時評―

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地方議会を今こそ「市民活動」に

編集委員増田 宏幸

 富山市議会に端を発した政務活動費(政活費)の不正使用は、他の自治体でも相次いで発覚し、問題の根深さを示している。思い出すのは1990年前後の4年間、駆け出しの新聞記者として奈良県で取材していた時のことだ。
 当時、奈良県では地方議員の不祥事が相次いだ。複数の市議会で、議長選挙に勝つため同僚議員に賄賂を贈る事件が発覚。うち1件では、対立議員を陥れようと暴力団を使って交通事故を起こす悪質さだった。他にも外国人女性に売春をさせる目的で旅館を経営したり、市職員に暴力を振るったり、拳銃を所持して銃刀法違反容疑で逮捕されたり……などなど。いま記憶を呼び起こしてもうんざりするほどだ。
 昔のことでもあり、特殊かつ極端な事例と思われるかもしれない。だが本質はどうだろう。政活費問題で改めて浮かんだ「なぜこのような議員が当選するのか」「地方議員とは、本当に必要な存在なのか」という疑問は共通している。綾小路きみまろではないが「あれから30年」、相も変らず私利私欲丸出しの議員が後を絶たないのはどうした訳だろう。もはや、こうした有害議員を生み出すシステムや、社会的背景の方にこそ根本的な問題がある、と考えざるを得ないのではないだろうか。

 やや古いが、2007年度の第29次地方制度調査会で示された総務省の「諸外国における地方自治体の議会制度について」という資料がある。イギリス、ドイツ、スウェーデン、イタリア、フランス、韓国の例が挙げられ、例えばボランタリーな議会のあり方で知られるスウェーデンでは、広域自治体「ランスティング」と基礎自治体「コミューン」(注)のいずれも、議員報酬は「原則として無給で、専業職ではないため多くの地方議員が兼業」だ。従ってコミューンの場合、議会会期も「7、8月を除いて毎月一度、年間10~12回程度で、時間帯は通常夕刻から始まり2~5時間程度」となっている。
 ドイツでも議会は夕刻から開催され、議員報酬は「通常、少額の報酬と出席手当が支給される」。イギリスは手当が支給されるが、議長相当職に対する加算を含めても日本の議員歳費に比べかなり低い。イタリアの市町村にあたる「コムーネ」の議会も出席に応じた日当の支給で、会期は8月を除く毎月曜日の午後6時~8時。フランスでも議員報酬は原則として無償で、議会が認める職務を執行する場合に一定の条件下、必要経費の実費弁償があるという。

 日本の地方自治法では、議会は「設置する」ものとされており、現状では置くしかない。だが議員定数や議員報酬は条例次第で、政活費も同様だ。議員の選び方・あり方は、変えられるのではないだろうか。
 折しも東京都では小池知事が、20年東京五輪の開催費が招致時の予算見込み7300億円余から2兆円超、3兆円と増えたことについて、見直しを提起している。桁は違うが、この増額ぶりは政活費不正をした地方議員と同根のように見える。すなわち、公金の使用前は「(どう扱ってもいい)自分の金」と考える一方、使いっぷりは「(糸目をつけない)他人の金」(自分の金なら節約するだろうに……)。
 どんな形であれ、地方議員に必要なのは一般常識と、何より地域をより良くしようという使命感、当たり前の倫理観だろう。議案や予算の知識が足りなければ専門家を巻き込めばいい。それは、考えてみれば市民活動の現場と同じではないか。地域や社会に関心を持ち、足らざるは支援を求め、より良くしようと努める。どこかの地域で市民が堪忍袋の緒を切り、議員・議会の「夜間(夕刻)開催、無報酬」の先鞭をつけないだろうか。一つ実現すれば、一気に広がる気がする。

(注)資料には明示されていないが、議員定数の規定を見る限りランスティングは人口10万前後~30万人、コミューンは数万人以下と思われる。

【Volo(ウォロ)2016年10・11月号:掲載】

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