ボラ協のオピニオン―V時評―

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あらゆる場に「参加の機会・窓口」を

編集委員早瀬 昇

 エンドロールを観ながら、不覚にも涙を抑えられなかった。映画『この世界の片隅に』(片渕須直監督)の最後、この映画を世に出すために寄付をした人々の名前が延々と紹介される場面だ。実に多くの人々の支えで、この素晴らしい映画が生まれたことに感激した。
 広島と呉で暮らした一人の女性の昭和8年から21年までの日々を、アニメーションで丁寧に描いたこの映画は、実に多くの人々の参加によって生まれた。原爆で壊滅した街を再現するため、当時を知る人々が薄れかけていた記憶を呼び覚まし、当時の街並みや行きかう人々が現代によみがえった。
 この映画の製作に必要な出資企業を募るため、パイロットフィルム(試験的な短い映像)の製作費要として2000万円を目標にクラウドファンディングが実施されたのが昨年3月。この目標はわずか8日あまりで達成し、最終的に全国の3374人から3912万円を超える寄付が寄せられた。
 この反響の大きさに映画館主が反応。出資企業も集まり始め、昨年6月に映画制作が正式に決定。さらに映画製作に関わった人々が「『この世界の片隅に』を支援する呉・広島の会」を設立し、情報交換やPRを進めている。

 魅力的な夢の実現に関われる「参加の機会」を提供すれば、人々の意欲的で創造的な取り組みが広がる。そう確信できる出来事だ。そしてこうした動きは、「動員」といった自発性を無視する用語が飛び交いがちだったPTAでも起こっている。
 今年2月、小学館から『PTA、やらなきゃダメですか?』という新書が発刊された。新聞記者でもある著者・山本浩資氏が東京都大田区立嶺町小学校のPTA会長に選ばれたことに始まるPTA改革のレポート。ドラッカーの『マネジメント』も参考にして、PTAをPTO(保護者と先生による楽しむ学校応援団)に改組し、行事を進める人を「この指とまれ」方式で募るなど多彩な改革が進んでいる。その改革の核をなすのは、役員会をボランティアセンターに変えたことだ。
 役員会だと役員になった人が活動をすべて担いがちで、事実、そうしたPTAが一般的だ。そこで役員になると私生活が犠牲になり、勢い役員のなり手がいなくなってしまう。しかし、元来、多くの保護者は子どもたちの健やかな成長を願っているし、そのために「できること」はしたいと思っている。そこで、役員会をボランティアセンターに改め、役員だけが抱えていた役割を広く保護者などに開放。さらにこの指とまれ方式で新たな活動を創造していくことにしたのだ。

 このPTA改革の実践は多様な組織に応用できるだろう。既に大学や一部の企業にもボランティアセンター(ボラセン)が開設されている。さらに、自治会ボラセン、お寺ボラセン、地域包括支援センターボラセン…など、「参加の機会」を提供するプロジェクト、「参加の窓口」を備えた組織を増やしていくことで、組織に活力が生まれ、窮屈な現状を打開できるはずだ。
 内閣府が今年1、2月に実施した「社会意識に関する世論調査」で、「日頃、社会の一員として、何か社会のために役立ちたい」と答えた人の割合は65%。人々の間に潜在する参加の意欲に応える環境を様々な場で作っていくことが必要だろう。

【Volo(ウォロ)2016年12月・2017年1月号:掲載】

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