ボラ協のオピニオン―V時評―

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誰と「ともに生きる」のか?

編集委員牧口 明

 今からおよそ半世紀前の1970(昭和45)年5月29日。神奈川県横浜市で、脳性マヒの児童をその母親がエプロンの紐で絞殺するという事件が起こった。この時、世間の同情は殺された障害児にではなく殺した母親に向けられ、近隣の人びとやPTAなどによる減刑嘆願運動が繰り広げられた。そのことに、殺された児童と同じ脳性マヒ者として異を唱えたのが「全国青い芝の会神奈川県連合会」に集う障害者たちであり、ここから日本における障害当事者による人権回復の運動が始まったとされる。
 同会に関してはもう一つ、この事件から7年後の77(昭和52)年4月12日に、車いす利用者のバス利用が制限・拒否されていることに抗議しておこなわれた川崎市での「バス・ジャック事件」も有名である(注1)。
 これは、この時期、それまでは家庭や施設に閉じこめられていた障害者が少しずつ街に出始め、そのことの当然の成り行きとして車いす利用者等の公共交通機関利用という出来事が起こり始めていたことを時代背景としている。
 今日、街で車いす利用の障害者と出会うことは日常的にあり、その人たちが公共交通機関を利用している姿に接することも珍しくはない。しかし、当時の公共交通機関はどこにおいても、車いす利用の乗客を想定した受け入れ態勢がとられておらず、車いす利用者と交通機関の間で「乗せろ」「乗せない」といった争いが各地で起こされていたのである。

 これらの闘いがおこなわれた、いわば「障害者運動の先進地」とも言える神奈川県で昨年、施設入所中の障害者19人が殺害され、26人が傷つけられるという衝撃的な事件が起こった。犯人とされているのはその施設の元職員で、極端な優生思想の持ち主であったようだが、ネット上では彼に共感する書き込みも多いと聞く。
 青い芝の会が母親による障害児殺しへの減刑嘆願運動を批判し、抗議の声を上げてから今日までの間に障害者運動の領域では、国際障害者年の取り組みや障害者権利条約の締結等、世界的な権利擁護・確立の動き等も手伝って、日本においても「バリアフリー」といった言葉が一般化し、昨年4月には「障害者への合理的配慮の実施義務」を謳った障害者差別解消法も施行された。私たちはこの流れをさらに発展させなければならない。

 さて、前述の1970年代以後の障害者運動の中で広がった言葉として「ともに生きる」という言葉(理念)がある。今日では障害者福祉や教育の領域に留まらず、さまざまな領域で語られるようになっている。
 心身の障害のあるなしや民族・国籍・文化や宗教の違い、その他さまざまな属性や思想の違いを超えて全ての人びとが「ともに生きる」ことのできる社会をつくり出そうとする考えは大切にされなければならない。しかし私たちは、相模原事件の犯人とされる元職員や、今日、日本を含めて世界各地に広がりつつあるヘイト・スピーチやヘイト・クライム(注2)を繰り返す人たちとも「ともに生きる」ことができるだろうか? もちろん、彼らが「心変わり」してくれるよう働きかけなければならないし、その努力を放棄してはならないだろう。しかし、そのことがかなり困難なことも事実だ。
 そこで考えなければならないことは、私たちは「誰とともに生きようとするのか」ということではないだろうか? ヘイト・スピーチやヘイト・クライムを繰り返す人たちや、権力を背景に社会的に弱い立場にある人びとの生存権や生活権を侵害して顧みない人たちとともに生きるのか、それとも、そうした権利侵害の被害に遭っている人たちとともに生きるのか。そのことが、今後私たちに厳しく問われてくることになるのではないかと思われる。

(注1)この時期青い芝の会では、「車いす利用者のバス乗車拒否は障害者を地域社会から排除する行為である」として、運輸大臣(当時)や陸運局に車いす利用者のバス乗車に関して要望書を提出したりしていたが、行政も企業も労働組合も誠意を持ってその訴えに応答しようとはしなかったため、この運動の発端となった乗車拒否が最初におこなわれた国鉄(当時)川崎駅前のバスターミナルで、呼びかけに応えて全国からはせ参じた車いす利用者100人が28台のバスに乗り込むという行動に出た。
(注2)ヘイト・スピーチとは、民族・国籍・文化や宗教の違い、心身の障害のあるなしなど、自分から主体的に変えることが困難な属性に基づいて個人または集団を攻撃、脅迫、侮辱する発言や言動のこと(憎悪発言・表現)であり、ヘイト・クライムは、それがさらに、暴力行為等の犯罪にまで及んだ状態のことである(憎悪犯罪)。

【Volo(ウォロ)2017年4・5月号:掲載】

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