ボラ協のオピニオン―V時評―

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共謀罪の本質は「監視」への欲求

編集委員増田 宏幸

 共謀罪法案(組織犯罪処罰法改正案)の本質は「社会の監視」である。そう断言して差し支えないと筆者は考える。
 法案を巡る主な論点はいくつもあるが、その一つが国連の「国際組織犯罪防止条約の締結に必要」という主張だ。締約していないのは日本を含むわずか11カ国で、先進国では日本が唯一の未締結国だという(注1)。そう聞けば「共謀罪法は要る」と思ってしまうが、問題は国連条約の中身だ。
 第3条「(法の)適用範囲」で定める犯罪は「性質上国際的なものであり、かつ、組織的な犯罪集団が関与する……(a)第五条、第六条、第八条及び第二十三条の規定に従って定められる犯罪(b)前条に定義する重大な犯罪」(注2)とある。第5条は組織的な犯罪集団への参加、第6条は犯罪収益の洗浄、第8条は公務員の腐敗行為、第23条は犯罪の立証に不可欠な証人や裁判官に対する脅迫・暴行など司法妨害を挙げている。一読して、条約の主たる標的は薬物や銃器の密輸出入その他、多国間にわたる不正取引で資金を得るマフィアや暴力団といった犯罪組織であり、マネーロンダリングだと読み取れる。

 同条約第2条では「『重大な犯罪』とは、長期四年以上の自由を剥奪する刑又はこれより重い刑を科することができる犯罪を構成する行為をいう」とあり、日本では676の罪が対象になる。これを絞り込んだのが共謀罪法案の277罪だが、首をひねりたくなるようなものが多い。朝日新聞がまとめた一覧表(5月31日付)を見ても、例えば、▽森林法(保安林の区域内における森林窃盗、森林窃盗の贓物の運搬等)▽補助金適正化法(不正の手段による補助金等の受交付等)▽著作権法(著作権等の侵害等)▽種の保存法(国内希少野生動植物の捕獲等)――の他、実用新案法、意匠法、商標法といった適用対象が並ぶ。組員による補助金詐取がないとは言わないが、条約締結のためなら、むしろ暴力団の非合法化、公務員と組員との接触禁止などの法整備こそ先決だろう。
 適用対象の広さから感じるのは捜査機関、もっと言えば「統治する側」の欲求だ。Nシステム(主要道における車両ナンバー読み取りシステム)や防犯カメラの映像だけでなく、通信傍受法で対象が限定されている盗聴や、「違法」判決が出た令状なしのGPS捜査などを捜査に自由に使いたいと考えていてもおかしくない。今回の法案を素直に読み解くと、「国連条約締結」を大義名分にテロ対策を上乗せし、盗聴などの捜査手法を最大限拡大・適用しようという意図を感じる。

 さらに、ひとたび法律ができると、制定時の意図を超えて拡大運用される可能性があることは、歴史が物語っている。法を運用する「ひと」に明確な悪意はなくとも、法や組織に忠実であるがゆえに最悪の結果を招くことは、ナチスのホロコーストなどからも明らかだ。不作為や命令、指示、忖度もあれば、点数稼ぎで「罪をつくる」ことすらあるだろう。筆者は、ある意味「まじめな」捜査員が、無用な監視・摘発活動に励むことを恐れる。
 共謀罪法が自由な市民活動を萎縮させかねないと思うのは、岐阜県警大垣署が風力発電施設の勉強会を開いていた市民の情報を集め、事業者側に提供した件や、大分県警別府署が昨年夏の参院選時、労働組合の敷地に無断でビデオカメラを設置した件など実例があるからだ。安倍首相は参院での質疑で「法案は計画や準備行為など行為を処罰するもので、内心の自由を処罰するものではない。国民の権利、自由が不当に侵害されることがあってはならない」と答弁した。この言葉を決して忘れてはならないし、我々の手には政権を選ぶ選挙権があることも、改めて胸に刻むべきだ。

(注1、2)外務省のホームページより。国連条約は2003年9月発効。17年4月現在の締約国は187の国・地域。

【Volo(ウォロ)2017年6・7月号:掲載】

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