ボラ協のオピニオン―V時評―

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ボランティア活動と賃労働を分かつもの ~労基署によるNPOへの警告から考える~

編集委員筒井 のり子

 ひと月ほど前のことになるが、SNS上のある投稿がNPO関係者の間で話題になった。
 子どもの学習支援や居場所作りをしているあるNPOの代表が、労働基準監督署に呼ばれたというのだ。そこで言われたのは、ボランティアは、①何時から何時まで働くと拘束してはいけない、②給料をもらっている人と同じことをしてはいけない(補助的なことでなければならない)、③書面で契約書を交わしてはいけない。したがって、そのNPOで活動している学習ボランティア(週4日、19時から21時まで、子どもたちに無料で勉強を教えている)に対し、最低賃金以上の時給を支払う必要があるというのだ。すなわち、彼らは「ボランティア」ではなく「労働者」に該当すると見なされたわけである。
 この投稿に対し、同様の無料学習塾を運営している全国のNPO関係者から、「活動自体が成り立たなくなる」と危惧する声が多数寄せられた。投稿主であるNPOの場合は、学習ボランティアは完全な無償だが、いわゆる「有償ボランティア」などと称して中途半端な謝礼を支払っている場合は、事態はより深刻であろう。むしろ、日本において、そうした少額の報酬を支払うまぎらわしい活動の増加が顕著であるため労働基準監督署も動かざるを得なくなってきているとも言えるだろう。
 さらに、この問題は学習ボランティアだけでなく、災害時やその他の活動に適用される可能性もある。なぜなら、何時から何時と時間を限定して募集する活動は多数あるし、有給スタッフの業務と明確に区別できないような、ともに作り上げていくタイプの活動もある。また、最近ではボランティアに対して、活動内容について書面(同意書など)を取り交わすことも増えてきた。
 こうしたことから、改めてボランティアと労働との関係を整理しておく必要があるだろう。
 最低賃金法4条1項は「使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない」と規定している。活動している人が「労働者」に該当すれば、当該団体は最低賃金の支払義務を負う。この「労働者」は、労働基準法9条の「労働者」と同義だとされているので、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」ということになる。
 では、「使用される」とはどういうことだろうか。それは、「指揮監督下の労働」であるか、支払われた報酬が「労働の対価」であるかどうか、という二つ(「使用従属性」という)によって判断される。「使用従属性」の判断は、1.仕事の依頼・業務従事の諾否の自由、2.業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の程度、3.勤務場所、勤務時間の拘束性、4.報酬の労務対償性、などが挙げられる。
 したがって「ボランティア活動」であることを示すためには、「労働の対価」としての支払いがないことはもちろんだが、1.ボランティア側に活動を断る自由があるか、2.活動内容について細かく指示しすぎていないか、3.時間が決められている場合も休んだり遅れたりする自由があるか、といったことが重要となる。
 投稿したNPOでは、これらのことを労働基準監督署からボランティア側へ説明してもらい、事なきを得たとのことである。  このことから、より根本的に重要なのは、ボランティアの活動(あるいは団体のミッション)への共感度であり、活動プログラム作りへの主体的参画度であることがわかる。これらを尊重し、ボランティアとのコミュニケーションを常に大切にするのがボランティアコーディネーションの真髄なのである。

【Volo(ウォロ)2017年8・9月号:掲載】

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