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「きれいな記録」を残せば良いのか? 議事録に無ければ「無かったこと」になる政治

編集委員神野 武美

 日本の情報公開運動をリードするNPO法人情報公開クリアリングハウスの三木由希子理事長がNHKの放送から採録し、ブログに掲載したものによると、国家戦略特区諮問会議の民間議員が6月26日の記者会見で次のような発言をしたという。
 「今回のような問題が起こったのはきちんとした議事録がなかったことに尽きる。……改革に反対する人はそういうバイアスをつけた文書を作っている……これでいいよねと、両方こういう議論をしたよねという確認をしていく」(竹中平蔵東洋大学教授)、「両方ともがこれで納得するということをサインする、という文書をこれから〈は〉作る〈べき〉」(八田達夫大阪大学名誉教授)。 要するに、会議の参加者が同意した内容だけを議事録に記載すべしというわけである。
 一方、義家弘介文部科学副大臣(当時)も、上司がOKしたものだけを共有フォルダーに残すという文書管理のルールをつくる方針を示した(6月29日付毎日新聞)。
 いずれも、愛媛県今治市の国家戦略特区に加計学園(岡山市)が獣医学部を新設する計画について、内閣府から「官邸の最高レベルが言っている」「総理のご意向だと聞いている」と言われた記録を文科省内で共有していたことに関する話である。三木さんが「きれいな記録を作りましょうという方向にもっていきたいようだ」と批判するように、当事者の「両方」や省庁幹部同士が了解した記録だけを残せばいい話ではなく、行政過程をどう透明化して国民の監視下に置くのかという問題である。

 竹中さんの「きちんとした議事録」で古い話を思い出した。堺市では1983年2月に制定された倫理条例に基づき、市長や市議会議員が資産報告書を提出し、公募抽選で選ばれた市民と議員からなる公開の倫理調査会がそれを審査する。ところが、第1回の報告書は記入欄に「該当なし」が目立った。例えば、K議員は、豪邸を新築し土地に根抵当権が設定されているのに「債務」が「該当なし」。市民が録音した倫理調査会のやりとりでは、「土地が担保に入っているから何千万円かの債務はあるのか?」という質問に、K議員は「債務はあるわけ」「あります、あります、これだけの家建てたんやから」と答えていた。ところが、「忖度」したのか、市職員作成の議事録には答えの部分がそっくり抜けていた(野村孜子『「該当なし」の報告書』1986年、いんてる社)。

 地方議会の中には、会議の画像と音声をCATVやネットで配信するところもあるが、議事録作成には時間がかかり、答弁に窮し急に小声になったり動揺したりした部分が議事録には反映されないので、市民が音声データを開示請求するケースも少なくない。
 例えば、大阪府守口市の市民が2014年8月4日、市議会議会運営委員会協議会の音声データを開示請求したところ、市議会は12日に議事録を作成しデータを19日に廃棄した。開示請求者には「会議録作成のための備忘メモに過ぎない」として非開示とした。そこで行政訴訟を起こしたが、大阪地裁も同高裁も敗訴だった。高裁の判決理由は「会議録作成までに修正はありうる。(市民が)録音データを聴くと、後で作成される会議録とは見解が異なるおそれがあり、議事内容を公証する会議録作成の目的が達成されない。意思形成過程情報だから公開できない」。つまり会議の当事者同士が了解すれば、問題発言もポロっと漏らした真実も検証されることなく「永久に消し去ることができる」というわけだ。
 内閣府は、国家戦略特区ワーキンググループの会議に出席した加計学園幹部は公式発言が認められない「説明補助者」だから議事録に掲載しないとした(8月25日付朝日新聞)。議事録や会議録は会議の当事者だけのものではない。後世の人たちに真実を伝えるものでなければならない。

【Volo(ウォロ)2017年10・11月号:掲載】

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