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"大人"はどう応える? 総選挙で見えた若者の意識

編集委員増田 宏幸

 10月22日に総選挙が終わり、議席の上では与党が大勝した。その意味合いは様々だが、9条を中心とする「改憲」論議に大きく関わることは間違いない。世代による考え方、感じ方の違いも改憲の行方を左右するだろう。そう思っていたら、新聞で「自民勝たせた若者の意識」という記事を読み、鈍い衝撃を受けた。彼らの選択を、どう自分に引き寄せて考えればいいのか。財政赤字同様、将来世代のことをどこまで考えてきたか自省させられた。

 記事は11月14日の毎日新聞夕刊に掲載された。主見出しは「『青春=反権力』幻想に」。総選挙の投票日に共同通信社が実施した出口調査結果を基に、若者の「保守化」について論じている。記事によると、比例代表東京ブロックの投票先は10代の約47%、20代の約42%が「自民」と回答したが、30代~70歳以上は20%台後半~30%台だった。こうした傾向は他の比例ブロックでも見られた、という。
 記事が注目するのは大阪大特任教授、友枝敏雄さん(社会学)の研究チームによる意識調査結果だ。2001年から6年ごとに3回実施し、対象は高校生延べ1万人超。例えば「校則を守るのは当然か」という質問には、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた割合が01年の68.3%から13年には87.9%に増加。「日本の文化・伝統はほかの国よりも優れている」への肯定的回答も、01年の29.6%が13年には55.7%と2倍近くに増えている。
 「リスクの多い社会では、従来の規律から逸脱するよりも同調した方がいい。そのため今の若者は縦社会を好む傾向にあり、秩序の維持を大切にする」という友枝教授の指摘を受け、記者は「『空気を読んで従順』という姿が浮かぶ」と書く。一方で、「『革新勢力』と呼ばれた野党は対案を示そうとしない。(中略)それでは議論のしようがない。新たな動き、変化の足を引っ張る政党こそ、もはや『保守』と見るべきでしょう」という25歳の声も紹介し、これまでの「保守」「リベラル」の枠では捉えきれない若者の意識変化を描き出す。

 「護憲」が保守、という視点には意表を突かれるが、思考停止の護憲を指すならうなずける。特に「9条を守れ」と言うなら、自衛隊や日米安保条約を含めて説得力ある現状改革の道筋を示すべきだろう。現状を追認するなら憲法を変え、同時に日本が戦争に巻き込まれないよう、解釈の余地なく歯止めをかける条文にすべきだ。世界の情勢が変化する中、お題目として「護憲」を唱えるだけなら若者の批判を笑えない。  記事から読み取れるもう1点、自国の優越性を肯定するような傾向は、まかり間違うと排他的な情動を生みかねない。格差社会の中でよって立つ足場を失い、絶望感に支配された人が、国や権力者と同調することで自らを強者に位置づけようとしたり、ことさらに差異を強調して他者を排撃したりする姿は、今や世界で広がりを見せている。自民支持というより、無批判な「強者支持」にならないよう警鐘を鳴らすのも〝大人〟の役割ではないか。
 EU離脱を決めたイギリスの国民投票では、直前の世論調査で「残留」支持が多数を占めた若者から「高齢者は若者の将来を考えたのか」と怒りの声が上がったという。日本でも同様の状況ではないだろうか。政治に対する若者の無関心を憂えたり、逆に安全保障法制に反対する行動を揶揄したりする〝大人〟たちは、現在・未来の社会に対する責任についてどこまで自覚的だろうか。総選挙で示された意外とも言える若者の意識は、年長者が作ってきた社会の反映であり、年長者に対する視線そのものでもある。これからの社会を担う若者と、彼らの後ろに続く子どもたち、生まれ来る多くの命を念頭に、責任ある〝大人〟として何が最良の選択かを改めて突き詰めたい。

【Volo(ウォロ)2017年12月・2018年1月号:掲載】

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