ボラ協のオピニオン―V時評―

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障害者とボランティア・地域住民との接点を見直す~大規模災害時を視野に入れて 

編集委員永井 美佳

 大阪ボランティア協会(以下、協会)では、2016年度より「災害時のスペシャルニーズ(特別に配慮が必要な要請)支援事業」に取り組んでいる。その一環で行った大阪府内の障害者・難病者支援団体対象のアンケート調査で、「貴団体のスタッフが被災した場合、どのような人から支援を受けたいですか?(複数回答可)」という設問に対し、「福祉の経験や災害支援の経験を有するボランティア」「行政や連携団体からの職員派遣」の回答が多く、専門性の高い人材の支援を受けたい傾向があることが明らかになった。まだ十分とは言えないとしても、障害者を支える制度の進展によって、障害者と専門職との関係性は深まったが、ボランティアや地域住民との関係性は薄まったのではないだろうか。

 こう考えながら、ふと思い出した光景がある。障害のある人とない人が活動仲間として日常的にふれ合っていた姿である。協会が06年5月に大阪市福島区へ移転するまでは、大阪市北区の活動拠点でおおさか行動する障害者応援センター(以下、応援センター)がともに活動していた。応援センターに集う人は車いす利用者が多く、食事介助やトイレ介助が必要な人は、手助けのいる時に、「ちょっとええか」という身振りと音声コミュニケーションエイド(意思伝達ツール)で、その場にいる身近な人に声をかけ、ニードを満たしていった。帰宅時間と沿線が同じ人は途中まで一緒に帰り、泊まり介助者が足りない時は「泊まりに来て」と声がかかった。こうやって協会の職員やボランティアスタッフは、障害のある人との日常的なコミュニケーションや対応の力を肌感覚で身につけてきた。
 しかし、最近の協会は、障害のある人との日常的な接点が少なくなり、同時に障害のある人への対応力も減退した気がする。このことについて、応援センター事務局長の福島義弘さんは、「在宅障害者の日常生活の支え手が大きく変化したのは、障害者総合支援法施行後。事業所ではボランティアを受け入れていても、日常生活の場面で、ボランティアの存在をほとんど目にしなくなった」と言う。今や、在宅障害者の日常生活を家族以外で支えるのはヘルパーであり、ボランティアの姿は影をひそめている。

 福祉サービスの充実や制度化は、障害当事者や家族、支援者らの運動による成果であることは間違いない。一方で、障害者やその家族とボランティアが接点を持つ機会が限られ、「つながりが薄れ」ていく。そして生活面のニードがボランティアには「見えにくく」なる。この物理的・心理的な距離は、平時は支障を感じないかもしれないが、大規模災害時にはスペシャルニーズを持つ障害者の命を脅かしかねない。
 加えて、大規模災害時は、さまざまなサービスの安定供給が停止、あるいは機能麻痺を起こしかねない。福祉サービスも例外ではない。東日本大震災以降、BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)への関心が一層高まっているが、福祉施設では、「BCPの策定を予定している(検討中を含む)」は、大施設が26.6%、中施設が22.3%なのにその他施設では12.1%との結果となっており、特に規模の小さい施設において策定の必要性に対する認識が低い、という結果が出ている(「特定分野における事業継続に関する実態調査〈参考〉医療施設・福祉施設」13年8月)。この実態もスペシャルニーズを持つ障害者の命を脅かしているといえる。
 16年4月に起きた熊本地震は夜間に発生したため、在宅障害者のほとんどは福祉サービスを受けていない時間だったと聞く。緊急のときこそ機能する福祉サービスの一層の充実が求められる一方で、「つながりの薄れ」や「見えにくさ」解消のために、障害者とボランティア・地域住民との新たな接点を見出す必要性を感じる。協会が大切にする「市民参加」の観点から、この問題を問い直していきたい。

【Volo(ウォロ)2017年12月・2018年1月号:掲載】

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