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休眠預金活用への不信高めた内閣府のパブコメ対応

編集委員早瀬 昇

 長期間(基本は10年間)取引のなかった預金「休眠預金」を社会課題解決の資金として活用しようという休眠預金等活用法が2016年12月に成立して1年半。昨年5月に休眠預金等活用審議会が設置され、今年1月には休眠預金の対象となる預金の公告と個別通知も始まった。来年1月以降、いよいよ活用の対象となる休眠預金が発生する。一方、休眠預金の活用で司令塔的存在となる「指定活用団体」の公募要領も発表され、秋には選定されることになった。

 休眠預金が注目される理由は、まずその規模の大きさだ。
 金融庁の調査では、毎年、新たに発生する休眠預金は16年度だけで約880万口座。過去に休眠預金となった口座でも後から払い戻しが可能だが、16年度の場合、払い戻しは約100万口座だけだった。休眠預金の金額も莫大で、16年度だけで約1270億円。同年度に払い戻しされた預金は約570億円で、差し引き1年で約700億円も休眠預金が増えている。1口座の平均預金額は1万円以下だが、休眠化する口座が多く、全体では巨額になる。
 この金額の規模と共に大きな影響が予想されるのが、活用法第16条で定める「資金の活用に関する基本理念」の解釈だ。
 条文には「社会の諸課題を解決するための革新的な手法の開発を促進するための成果に係る目標に着目した助成等」と記されている。この「革新的な手法」や「成果に係る目標」には様々な解釈がありえるが、その解釈次第では地道に取り組まれる継続的活動がないがしろにされたり、目に見えやすい短期的な「成果」ばかりが注目されかねないなど、休眠預金を活用するNPOなどにマイナスの影響を与えかねない懸念もある。
 この点も含め、審議会では9カ月間に11回の審議を重ね、5カ所での地方公聴会、40団体のヒアリングを実施した後、今年1月、「休眠預金等交付金に係る資金の活用に関する基本方針案」をまとめた。そして2月9日から3月10日まで、行政手続法にもとづく意見募集、いわゆるパブリックコメント(以下、パブコメ)を募集した。
 このパブコメを受けた審議を経て、基本方針が確定する。多くの人々がそう考え、全国から168件ものコメントが寄せられた。

 ところが、このパブコメ募集後に開かれた3月27日の審議会には驚いた。168件のパブコメに対して、いずれも基本指針に反映しない旨の回答集を当日、配布。内閣府の企画官が「パブリックコメントによって特段修正をしないということを、御報告申し上げます」と報告し、基本指針案は何も修正されず確定したのだ。審議会はわずか8分で終了した(注)。
 この対応への批判が広がる中、5月に開かれた審議会で内閣府の参事官は、パブコメは審議会ではなく内閣府の責任で実施するものであり、すべてのパブコメに回答しているから、法律上、手続きに問題はないと説明した。
 しかし審議会も関与してまとめる施策は、パブコメへの回答案を審議会に示し、そこでの議論を経て回答を確定するのが一般的だ。審議会での議論がなければ回答の妥当性を検証できず、ともかく回答を作文できれば良いというアリバイ作りと化してしまうからだ。
 本来の所有者の意図に関係なくなされる休眠預金の活用には、国民的な合意と共感が特に必要だ。パブコメを通じてこの制度の改善を願う人々の提案を可能な限り受け入れていれば、この制度への信頼が高まることになっただろう。
 その機会を生かさなかったことで、内閣府は制度への不信感を高めることになった。その上、内閣府が作った指定活用団体の公募要領には、基本方針にはない内容も加わっている。それは、指定活用団体の体制イメージの評議員構成者に挙げられた「政界」代表だ。元々、議員連盟の資料には入っていたが、審議会ではまったく議論されていない。これでは政治の世界からの圧力があったのかという疑念も浮かんでしまう。
 内閣府はスケジュール重視で粛々と準備を進めるまえに、まず国民の共感を高めるための丁寧な手続きを重視すべきである。

(注)内閣府のホームぺージ「休眠預金等活用審議会」
http://www5.cao.go.jp/kyumin_yokin/shingikai/shingikai2017_index.htmlからダウンロードできる動画および議事録より。5月審議会に関する記述も同様。

【Volo(ウォロ)2018年6・7月号:掲載】

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