オリンピックボランティアをめぐる課題
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、東京2020大会)まで、あと2年を切った。今年は〝災害級〟の猛暑が続いていることもあり、7月24日スタートという大会日程には、各方面から疑問と心配の声が上がっている。選手はもちろんのこと、観客、そしてボランティアにとっても極めて過酷な大会となることが予想される。
今や、オリンピックにボランティアは欠かせない大きな存在となった。そもそもオリンピックに一般のボランティアが参加するようになったのは1948年の第14回ロンドンオリンピックからである。2000年のシドニー大会からは外国人ボランティアの参加が始まった。前回16年のリオ大会では約5万6千人、12年のロンドン大会では約7万人のボランティアが活躍した。東京2020大会では大会ボランティア(注1)8万人、都市ボランティア(注2)3万人、計11万人のボランティアの参加が計画されている。
しかし、今回のボランティア募集については、大会組織委員会が今年3月に募集要項案を発表して以降、主にネット上で「参加条件が厳しすぎる」、さらには「やりがい搾取ではないか」と言った批判が噴出している。それらを整理すると大きく二つの論点があるようだ。一つは参加者の負担が大きすぎるというもの、もう一つは活動内容についてである。
前者については、6月11日に正式発表された募集要項によると、①02年4月1日以前生まれで、活動期間中に日本国籍または在留資格を有する人、②1日8時間程度、基本10日以上活動できる人、③オリエンテーションと研修に参加できる人、という条件が提示されている。ユニフォーム一式と活動中の飲食、ボランティア保険、および滞在先から会場までの交通費相当の額は支給されるが、自宅から滞在先までの交通費と宿泊は自己負担・自己手配である。これについて、(無償の)ボランティアにここまで求めるのは酷ではないか、という批判である。しかし、リオ大会でもロンドン大会でも1日平均8時間で2週間程度の条件が示されていたことを考えると、今回の東京大会が特別に厳しいというわけではない。また、研修等への参加を必須とすることも、より共感性の高い活動を作り上げていく上では必然性がある。
後者については、当初、高度な通訳能力が必要と思われる活動が含まれていたため、専門職が担う仕事なのにタダ働きさせるのか、という批判である。これについては、確かに仕事として雇用するプロの通訳・翻訳者とボランティアとの役割の違いを明確にしておかねば、指摘されるような「やりがい搾取」になりかねない。
これらの批判からは、ともすれば「活動日数や時間の減少」「宿泊費等の提供」「有償化」といった主張に流れがちだ。しかし、問題の本質は、単に時間を減らしたりお金を払ったりということにはない。参加するボランティア一人ひとりが、どれだけ自負心、すなわち「自分も大会を成功に導く重要な一員だ」という意識を持てるかが重要なのである。これから2年間、応募者のモチベーションをいかに維持し、エンパワメントしていけるのか。また大会期間中もどれだけボランティアが活動しやすいような仕組みや配慮ができるのか。そのためにどれだけの費用と時間をかけ、ボランティアマネジメントの専門性を発揮できるのかを問うていかねばならない。
いずれにしても、本人が活動に共感し、条件を理解した上で、自主的に応募して来ることが大前提である。その意味から、今後の影響が心配な事案が発生している。7月26日にスポーツ庁と文科省が全ての国公私立大学長・国公私立高等専門学校長に対して、大会期間中の授業や試験の日程を柔軟に変更することを求める通知を出した。この通知を根拠に、動員的なボランティア集めが広がらないことを切に祈っている。
(注1)競技会場や選手村その他関連施設等で、観客サービスや競技運営サポート、メディアのサポートなど大会運営に直接関わる活動を行う。運営主体は大会組織委員会。 (注2)空港、都内主要駅、観光地、競技会場の最寄駅周辺及びライブサイト(競技会場以外で中継・イベントなど実施する場所)における観光・交通案内などを行う。運営主体は東京都。
【Volo(ウォロ)2018年8・9月号:掲載】
2024.10
「新しい生活困難層」の拡大と体験格差〜体験につなぐ支援を〜
編集委員 筒井 のり子
2024.10
再考「ポリコレ」の有用性
編集委員 増田 宏幸