ボラ協のオピニオン―V時評―

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情報交換と共有ができない――パノプティコン社会に想う

編集委員神野 武美

 行政機関や立法機関、裁判所が障害者の雇用数を水増しし、障害者雇用促進法に基づく障害者雇用率を偽っていたという再調査結果を厚生労働省が公表した。とくに驚かされたのは裁判所。障害者雇用者数641人のうち399人を水増し、雇用率2・58%の実際は0・97%だった(朝日新聞2018年9月7日付)。

 思い当たるフシがある。市民団体「知る権利ネットワーク関西」が08年10月7日、大阪地裁、高裁で行った「情報公開請求ツアーto裁判所」は、集団で公開請求することで情報公開の姿勢を検証する試みであった。裁判所は情報公開法の適用外だが、最高裁は下級裁判所に、「司法行政文書」は同法の基準により情報提供するよう求めた「依命通達」を出している。高裁に対し「障害者任免状況通報書」を請求すると、障害の程度や短時間勤務など雇用形態ごとに係数を掛けた計算上の「障害者数」7・0人と「実雇用率」2・06%は公開したが、なぜか、「重度」「知的」「視覚」といった障害別などの雇用の実数は全部黒塗りだった。「個人の権利利益を害するおそれ」というのが理由だった。
 裁判所の姿勢を非難しても障害者雇用率が上がるわけではない。古い話で恐縮だが、1992年に法定雇用率(当時1・8%)が未達成の大企業(従業員1000人以上)が大阪府に提出した「自社の取り組み状況」を異議申し立ての末、公開させたことがある。企業名は結局、非公開だったが、この資料をもとに、障害者団体は「(企業が「取り組み」として挙げた)湯茶業務やコピー業務は体力が必要で障害者向きではない」など、障害者の労働能力についての無知や発想の貧困さを指摘した。一方、ある人材派遣会社が主催した就職シンポジウムでは、企業の人事担当者から「企業名を公開した方が、障害者雇用について社内の理解が得られる」「他社の取り組みも知りたい」という声が上がった。国の情報公開審査会の答申(2002年11月)により、企業名入りの障害者雇用率が公開されるようになったが、旧労働省(厚生労働省)の姿勢は、企業情報に対する情報公開に消極的なままである。
 「水増し」の背景には、公共機関といえども「どうしたらよいのか」を知る機会が少ないという現実があるのだろう。役所(厚生労働省)は、企業や公共機関を指導監督、監視しているが、監視される側は、情報が公開されないため、お互いの状態や取り組みを知る機会がない。こうした状況を「パノプティコン社会」と言うらしい(本号26ページ「ライブラリー」参照)。中央にある監視所から放射状に配された独房を監視する刑務所の円形建物からの連想である。

 奈良少年刑務所(18年3月廃止)の職業訓練で、受刑者の情報処理技術者試験の合格率が5割を超し2割台の一般をしのいだ、という講演を聴いたことがある。受講者(受刑者)の横に講師が座り同じ画面を見て指導するなどして、分数もできなかった受刑者も合格した。ところが、別の刑務所では、講師が演壇から降りることが禁止され、受刑者は黙って話を聴くだけ。刑務所間の情報交換も情報共有がない、という報告であった。刑務所だから「パノプティコンで当然」? それは悪い冗談でしかない。

【Volo(ウォロ)2018年12月・2019年1月号:掲載】

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