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名古屋城天守閣復元計画 振り出しに戻って検討せよ

編集委員牧口 明

 伊勢音頭で「伊勢は津でもつ、津は伊勢でもつ、尾張名古屋は城でもつ」と歌われてきた名古屋城天守閣の復元計画を巡っていま、名古屋市政が混迷している。
 ことの発端は一昨年4月、「木造天守閣復元」をかかげた河村たかし市長が4選を果たしたことに始まる。戦後の1959年に鉄骨鉄筋コンクリート造で再建された現在の天守閣は、60年近くがたって老朽化が進み、耐震上の問題が指摘されていることがその背景にある。
 なぜ「木造による」建て替えなのかというと、名古屋城天守閣には、戦災で焼失する以前におこなわれた調査に基づく記録(昭和実測図)をはじめ豊富な史料が残されており、史実に忠実な木造での復元が可能と言われているからである。
 名古屋城は、戦前の30年に城郭として初めて国宝に指定され、天守閣を焼失した戦後も国の特別史跡に指定されている。この名古屋城を「名古屋市民の精神的支柱であり、誇りだ」とする河村市長は、天守閣の木造復元を実現することで「特別史跡名古屋城跡の本質的価値をより広く内外に発信する」ことができると考えているようだ。

 そこで問題となっているのがバリアフリーへの対応だ。今さら述べるまでもないことだが、現代の建築物においてバリアフリーへの対応は、特に公共的建築物については絶対的要件と言っても過言ではない。それは、国際的には障害者権利条約、国内的には障害者差別解消法において明確にされていることである。
 ところが、驚くべきことに河村市長は、「史実に忠実に復元する天守閣とするために」天守閣内部には「バリアフリー法の建築物移動円滑化基準に対応するエレベーターは設置できない」。また外部エレベーターについても、「景観計画により名古屋城の眺望景観の保全を図る」ために「設置しない」との方針を打ち出したのである。  これに対し、障害者インターナショナル(DPI)日本会議をはじめとする障害者団体が抗議の声をあげたのは当然のことである。
 同会議は昨年5月の総会において、スプリンクラーや照明設備、トイレなどを例に挙げて「多くの人が利用するものは史実に忠実ではなくても設置するのに、障害者や高齢者等が必要なエレベーターは史実に忠実という名のもとに設置しない。これは、障害者への差別です」とする抗議文を採択し、市長のダブルスタンダードに異を唱えた。
 これに対して市長は、エレベーターに代わるバリアフリー対応策として、「新技術を用いる12の提案」をおこなっているのだが、その内容たるや、「段差を上る車いす型ロボット」「装着型の移動支援機器」「VR・分身ロボット」「車いすに乗ったまま乗降可能なチェアリフト」「車いすに乗ったまま乗降可能なはしご車」「フォークリフト・高所作業車」「車いす用段差解消機」「(車いすでの)搭乗可能なドローン」「二足の移動補助ロボット」「パワードスーツ」「人工筋肉」「国際コンペ」といったもので、いずれもまともな検討に値する提案とは言い難い。DPI日本会議副議長の尾上(おのうえ)浩二さんは「ドローンやはしご車、フォークリフトで、誰が天守閣まで昇りたいと思うだろうか」と疑問を投げかける。
 また、最後の国際コンペは「新技術開発のための提案を募る」もので、要するに、現時点でエレベーターに代わる新技術の確固とした見通しがあるわけではないことを自ら明らかにしたものとも言える。

 この天守閣復元計画に関しては、バリアフリーへの対応以外にも、重要文化財である石垣保全の問題や、500億円を超えると見込まれる経費の調達に関する問題など数々の問題点が指摘されている。もう一度振り出しに戻って歴史に禍根を残さない方策を考える必要があるだろう。

【Volo(ウォロ)2019年6・7月号:掲載】

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