活動参加の機会を現役世代にも
「夫婦そろって65歳から30年間生きると、老後資金が総額2000万円不足する」との試算を発表した金融庁の金融審議会報告書が大きな話題となった。元々、現行の年金制度は現役世代の年収の5割前後の所得を保障する仕組みだから、現役の時期と同じ生活水準を退職後も維持しようとすれば年金だけでは不足することは以前から明らかだった。参議院選挙後に公表が延期された年金財政検証で、この保障水準がさらに低下する可能性はあるものの、年金制度が急に破綻したわけではない。
しかし、具体的に2000万円という金額が示されたことで、老後への不安が高まったことは確かだ。定年退職後も何か仕事を見つけなければ……と思った人も少なくないだろう。
この件は、今後の市民活動の行く末を考える上でも心配な話だろう。シニア層は市民活動を支える重要な担い手だが、今後、「老後も有給の仕事をしなければ……」という人が増えると、活動の参加者が減る懸念があるからだ。
総務省の社会生活基本調査では、男性のボランティア行動率が最も高いのは65歳から69歳の31・0%(2016年調査)。女性では40歳から44歳が39・4%で最も高いが、01年調査から15年間で4%減少。ちなみに35歳から39歳の女性は約10%減っている。これは、女性の就業率向上が影響していると言えるだろう。
女性に続き男性高齢者も有給の仕事への志向が高まってくると、市民活動の担い手の先細りが心配になってくる。
そんな中、昨年、リクルートワークス研究所から注目される調査結果が発表された。「人生100年時代のライフキャリア」と題する報告書の中で、市民活動に参加している企業人は、前向きの姿勢の人々が多いと報告されたのだ。
具体的には、「所属組織」と「キャリア展望」との関係を示したグラフ(注)を見てほしい。ここで「キャリア展望」とは、これからのキャリアや人生について「自分で切り開いていける」「前向きに取り組んでいける」「明るいと思う」という回答の合成変数。このグラフでは、同じ職場の同僚としか関わりのない人のキャリア展望が最低であるのに対し、ボランティア活動やNPOに関わっている人のキャリア展望が最高になっている。
職場内だけの付き合いにとどまらず市民活動などに参加することは、自らの視野を広げ、新たな取り組みに挑戦しようとする意欲を高める効果があると言えそうだ。このデータが知られれば、現役時代から、そして高齢になっても、二足のをはいて、仕事に加え、市民活動も楽しむスタイルが広がる可能性がある。
企業の社会貢献活動が活発化した90年代以降、ボランティア休暇の導入などで、社員のボランティア参加を応援する企業は増えてきた。また、仕事で培った専門性を生かして市民団体の活動を応援する「プロボノ」の参加を、積極的に応援する企業も出てきた。さらに大阪ボランティア協会では、週末や平日の夜に3時間程度で完結するプログラム「ボランティアスタイル」を実施している。
こうした取り組みを各地で共有し、どんな年代でも、働きながら市民活動に参加することができる機会の提供を進めたい。仕事と市民活動の両立は、より前向きに生きる鍵とも言えるのだから。
(注)リクルートワークス研究所(2018)「人生100年時代のライフキャリア」の掲載図を元に一部修正。
【Volo(ウォロ)2019年8・9月号:掲載】
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