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「東京一極集中」に思う―危機感の無さに危機感を覚える

編集委員神野 武美

 相模鉄道が11月30日に東京都心に乗り入れる。「相鉄」はかつて、横浜駅から神奈川県中央部の海老名駅を結ぶローカル私鉄だった。それが西谷駅から新線を建設してJR東海道貨物線に繋げ、同線を旅客路線化して武蔵小杉駅経由で新宿に向かう。元々JR南武線と東急東横線の乗換駅の武蔵小杉駅は、2010年に横須賀線の駅が開業して「便利」になり、駅周辺はタワーマンションが林立し、各種調査では「住みたい街」で上位ランキングされているが、通勤時の混雑率は200%に近く、ホームも人があふれて危険な状態なのに、「相鉄・JR直通線」が開通すれば、いっそう混雑が酷くなり混乱が予想されている。東京への人口集中がもはや限界に達していることを象徴する事例ではないのか。

 巨大都市に人口や産業が集中するのは、その利便性からくる「集積の利益」のためであり、その一方で事務所や住宅の賃料が高騰したり、交通混雑がひどくなったり「集積の不利益」も増大する。ただ、道路や鉄道の建設、郊外の宅地開発、都市再開発で、ネックとなっていた要因が取り除かれるとさらなる集中を呼び込む。それは、都心に不動産を持つ富裕層や、収益性を追求する企業のための「集積の利益」であり、地方は、労働力と仕事を奪われて衰退し、大都市は流入した市民を中心に貧困層が形成される。
 「今のような東京一極集中の経済は確実に終焉を迎える」と言うのは、第一次安倍内閣で総務大臣を務めた増田寛也氏。産経新聞論説委員の河合雅司氏との対談形式の著作『地方消滅と東京老化』(ビジネス社、15年)で述べた。この著作を要約すると、河合氏は「東京は、地方の若者を吸い尽くしその活力の源泉は枯渇寸前であり、東京の高齢化は急速に進む。空き家が急増し、少し不便な地域の不動産は土地や家屋は買い手がつかず不良資産化する。地価の高さが富を生むビジネスモデルはもはや成り立たない」とし、増田氏は「地方経済は年金による消費で支えられてきたが、東京に高齢者が増えれば年金のカネも東京に集中する。東京に残るべきは、世界から取り込んだ能力の高い人に高い給料を払える企業だが、労働集約的な企業が依然として、若い人を安い給料でこき使い24時間営業などして成り立っており、このままでは東京も地方も共倒れする」と指摘している。
 こうした考えは、高齢者人口がピークとなる40年頃を想定した総務省の自治体戦略2040構想研究会の報告(第1次、第2次とも18年)にも反映されている。

 政権に批判的な金子勝・立教大学特任教授(経済学)は「IOTやICTは小規模かつ多数に分散した情報を瞬時に調整できる特性を持つがゆえに、効率的な地域分散ネットワークを構築できる」「原発、リニア新幹線、といった、古い産業(ゾンビ企業)を救済する大規模プロジェクトやカジノ誘致では、経済の新陳代謝や成長を牽引する産業は生まれない」(『平成経済衰退の本質』など、19年)と述べている。政権に近い増田氏らとも、地方の活性化を図る方向は一致しており、「いつまでもきれいごとを言って、小手先の改革でお茶を濁していたのでは日本は本当に沈没してしまう」(河合氏)という危機感も同じだ。

 しかし、テレビなどマスコミの報道には、こうした危機感が微塵も感じられない。相変わらず、東京発の芸能ネタ、東京五輪キャンペーン、日韓の対立を煽るといった報道ばかりである。こうした身近に迫る危機(東京で大震災が起これば一気に表面化するが)について、政治的立場の違いを乗り越えて議論を起こすべきであり、それは可能であると思う。

【Volo(ウォロ)2019年10・11月号:掲載】

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