知らず知らずのうちに、参加の機会を奪っていないか
ボランティアが参加する会議でのよくある話をしよう。新規企画の意見交換で盛り上がり、方向性が出たところで「今日の議論を受けて企画書のたたき台を誰か担当しませんか?」と議長。誰の手も挙がらず、重苦しい沈黙が……。
この沈黙にあなたなら何秒間耐えられるだろうか。心中で迷いながら周りの様子をうかがう。ここで「やりましょうか」と誰かが名乗り出てくれると、安堵の空気が流れて緊張が解かれる。
さて、このような場面で、あなたが有給の事務局職員(以下、職員)だった場合は、どのように対応するだろうか。職員としての責任感で引き受けるか、適任そうな人に見当をつけて「やっていただけませんか」と指名するか。あるいは、ボランティアの自発性を促すような働きかけもできるだろう。
大阪ボランティア協会(以下、協会)の事業推進においても、よくある光景だ。役割は、企画書作成に限らず、議事次第や議事録作成、原稿執筆などさまざまである。
ボランティアとの協働経験の少ない職員だと、役割分担のよいあんばいに戸惑うことは多い。筆者は「よかれと思って職員がやりすぎてはいけない。手を出しすぎることは、ボランティアの参加や活躍の機会を奪うことになるからね。じっくりと構えて待つことも取り入れてみて」と伝えるようにしている。職員がやりすぎないのと同時に、抱え込まないことも大事だ。何より、ボランティア一人ひとりのものの見方や考え方と向き合うことが、その人らしい役割と参加の機会を創出するきっかけとなるのだ。
先日、ある生活協同組合の組合員活動をサポートする部署から、「参加者の主体的な関わりを引き出す支援のあり方」というテーマで、職員に話をさせてもらう機会を得た。研修担当者の問題意識はこうだ。「生協の組合員活動は基本的に事務局が配置されていて、事前準備から資料作成まで丁寧な支援が行われているが、ともすれば『お膳立て』『構いすぎ』になりがちだ。そのことが『よい事務局』という誤解も少なからずある。参加者の主体的な関わりを引き出すことが事務局の仕事であることを共有したい」
どこからがお膳立てや構いすぎになるのか、明確な基準があるわけではない。職員のかかわり方は、グループメンバーの経験や力量によっても変化する。たとえば、事務力の高い人材の有無や、アイデア出しが得意なのか、実働が得意なのかなど構成員の強みによって職員のかかわり方は変化するものだ。
そもそも、事務局の仕事の範囲を決めるのであれば、ボランティアと職員がそれぞれ担う業務や作業の範囲を協議したり、点検したりするプロセスが必要であろう。協会では、「職員とボランティアの協働と役割分担」について、以下の11の点検項目で、定期的に協議することを推奨している(注)。
①事業の企画立案、実施、進行管理
②準備会議や例会の案内、進行、記録など
③企画から実施・進行に伴う、準備、運営バックアップ、事務、当日フォロー
④イベント等実施後のアンケート集計や当日の記録などの事務
⑤メンバーの意欲や協働案を高め、活動を活性化するような働きかけ
⑥事業全体を見渡しながらの全体的なファシリテート
⑦新メンバーのリクルート&個別オリエンテーション
⑧事業によっては、チームメンバーが持つつながり(専門家や関係団体)の強化、マスコミとの調整、地域関係構築・渉外のような役割
⑨チーム事業の発信や報告(SNSやブログ等)
⑩参加システムの促進、他事業からの誘いあい
⑪会議室や会場の予約、調整等
ボランティアの参加や活躍の機会を創出することは、別の言い方をすると、ボランティアの潜在的な力の開発ともいえる。ボランティアと協働する機会のある職員は、これまでの自身のかかわり方を点検・再考する一助になればと願う。
(注)「アソシエーターの手引き」アクションガイドブックより。11項目で点検する役割は、経理実務や個人情報の管理など職員が担う方がよい事項は除く。
【Volo(ウォロ)2020年8・9月号:掲載】
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