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ボランティア活動の多様な展開 ――コロナ禍におけるアメリカの実相

法政大学大学院連帯社会インスティテュート教授柏木 宏

 感染者3000万人、死者50万人。人口が3億を超えるとはいえ、アメリカのコロナ禍がとてつもない状況に陥っていることを示す数字だ。社会経済活動が大きく制約され、人々の生活は厳しさを増し、支援の必要性が高まっている。とはいえ、「ソーシャルディスタンス」が求められるなかで、ボランティア活動も抑制せざるをえないのではないか。こう思う人が少なくないだろう。

 「助けが必要になれば、支援の輪も広がることを実感した」
 こう語るのは、首都ワシントンをポトマック川で隔てたバージニア州アレクサンドリアに住む、アンバー・マーチャンドさんだ。
 全米で新型コロナウイルスの感染が拡大していた昨年6月、食べ物に不自由している人がいることを知ったアンバーさんは、夫のステーリングさんとともに、自宅の前に非生鮮食品を寄付してもらうために箱を置いた。近所の人々や友人からの寄付により、箱はすぐに満杯になった。普通なら、これをフードバンクに持ち込んだだけで終えただろう。しかし、マーチャンド夫妻は違った。
 いくつかのNPOに連絡を取ったところ、首都ワシントンのマーシャズ・テーブルというNPOに、ホームレスの人々に配るサンドイッチが不足しているといわれた。その数250個。3歳から9歳までの子ども4人を抱える夫妻は、このニーズに応えるため、税制優遇の資格をもつNPOを設立。今年3月まで、毎週1500個のサンドイッチを届けている。  アメリカで食料支援のNPOといえば、フードバンクが真っ先に頭に浮かぶ。マーチャンド夫妻の活動が示すように、コロナ禍で食料難になった人は少なくない。フードバンクへのニーズも急増した。しかし、ウイルスへの感染を恐れ、ボランティア活動を控える人が続出。各地のフードバンクは、ボランティア不足に陥った。
 この事態に手を差し伸べたのが、退役軍人を中心にした12万人のボランティアを擁する、チーム・ルビコンだ。昨年5月、全米のフードバンクの連合体、フィーディング・アメリカと連携して、各地のフードバンクの倉庫の管理運営に加え、食品や食事の配送のための活動に取り組むことになった。
 チーム・ルビコンのボランティアは、ワクチン接種の活動にも関わり始めた。今年2月、大学などで学ぶ退役軍人のNPO、アメリカ退役軍人学生会(会員75万人)など五つの退役軍人団体とともに、ワクチン接種退役軍人連盟を設立。ワクチンの配送や管理などの業務を担い、コロナ禍に見舞われた地域社会の再建に向けた支援を進めている。
 ボランティアというと、無償性や利他性が強調されがちだ。これらの「原則」は重視しつつも、有形無形の対価を受ける「利己性」を限定的に盛り込むことも少なくない。ワクチン接種に関連したボランティア活動に対する、カリフォルニア州の動きは、そのひとつといえよう。
 「私の順番」というプログラムで、ワクチン接種に関連したボランティア活動に4時間以上従事すると、優先的に接種を受けることができる。接種会場での活動だけではなく、ワクチンに関する啓発活動や接種希望者への予約の手助けなども含まれる。

 この他にも、さまざまな活動がある。個人用防護具(PPE)や食事を病院に送る活動はいうまでもない。ペンシルベニア州のハバフォード大学の学生は、医療従事者の子弟に、無償の家庭教師となって勉強の手助けをする活動を実施。こうした活動の多様性が、コロナ禍にあってボランティア活動の意義と役割を高めているといえよう。

【Volo(ウォロ)2021年4・5月号:掲載】

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