ボラ協のオピニオン―V時評―

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「まちづくり」というボランティア活動

編集委員神野 武美

 NHKアナウンサーを辞めた近江友里恵さんが大手不動産会社に就職し、「街づくり」の仕事をするという。不動産会社や行政が行う都市開発事業や都市計画、災害復興に伴う土木工事も「街をつくる」仕事だが、町並み景観や古民家の保存・活用を目指す市民ボランティアによる「まちづくり」活動も全国津々浦々で展開されている。私の所属する公益社団法人奈良まちづくりセンター(NMC)もその一つ。NMCなど「奈良町」で活動する11のまちづくり団体で実行委員会をつくり、今年11月12、13日に奈良市などと共催で、全国各地の町並み保存活動団体が集う、第44回全国町並みゼミ奈良大会を予定している。

 奈良町のまちづくり団体は多種多様だ。例えば、「なべかつ」や「てんかつ」(いずれも略称)は、奈良女子大前の旧鍋屋交番や東大寺転害門(国宝)前の元銀行支店のレトロな建物を拠点にイベントや来訪者への町案内を行い、「京終文殊」は、奈良町南部の話題や伝統行事を載せた「京終ニュース」(隔月刊)を発行し、ほぼ毎月「京終さろん」という講演会を開く。「なら・町家研究会」は、建築の専門家として町家の調査研究や修復・活用の相談に乗る。いずれも歴史的景観や伝統的な生活文化を守るために立ち上がった一般市民、建築家、自治体職員などの活動である。
 江戸時代に「鹿柵」で囲まれていた奈良市の旧市街は「奈良町」と呼ばれ、今も300余りの「町」(自治会)で構成されている(注)。1985年の奈良市教育委員会の調査では、町家は3259件あったが、2020年のNMC、なら・町家研究会の調査では1285件と35年間で61%も減少した。町家の持ち主が亡くなり遺産相続で売却されたり、所有者の転居で空き家になったりした跡地にマンションが建ったケースも少なくない。町家が無くなるということは、書画や古文書などの収蔵物が散逸し、担い手を失った伝統行事が衰退するということを意味する。奈良市は、町家の保存に助成金を出しているが、建物や土地はしょせん、「私有財産」である。ただ、町家が取り壊されマンションや商業施設になれば、「町並み」という公共空間としての価値が棄損され、その不動産価値は将来的に下がるという矛盾を抱える。

 とは言っても、近年は町家ブームである。京都や奈良では町家を改造してゲストハウスや外来者の別荘や仕事場にする動きも活発だ。町家の保全活用への効果が期待できるものの、行き過ぎれば、購買力のある富裕層や外国人向けの事業者に町全体が支配されてしまう。つまり、外部資金の流入は不動産価格の上昇を招き、元からの住民は去り、町家の外観は保たれても、テーマパークのような、底の浅い「商業空間」になりかねないからだ。
 「奈良町」の魅力は、町家や寺社、小さいが個性的な生業の店が混在する風情のある町並みであり、集会所と祠堂(神社や仏堂)をセットにした「会所」のある「町」も少なくない。町家は減っても、町々は、江戸時代以来の住民同士のつながりを保ち、地蔵盆、観音講、春日講、庚申講などの伝統行事が営々と続けられ独特の生活文化を醸し出している。文化庁、自治体、民間財団などの助成を得る場合もあるが、まちづくり団体の多くは「手弁当」の活動である。さまざまな矛盾を抱え一筋縄でいかない現実に、あの手この手で粘り強く立ち向かうのがまちづくりボランティアの真骨頂である。

 (注)江戸時代の「奈良町」は、春日大社の神鹿が周辺の農業地帯に出て作物を荒らさないよう周囲に鹿柵があり、自治単位としての「町」はおおむね数十世帯からなる。

【Volo(ウォロ)2021年6・7月号:掲載】

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