ボラ協のオピニオン―V時評―

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「参加する福祉」発行から40年

編集委員早瀬 昇

 今年は東日本大震災から10年、ボランティア国際年から20年、ソビエト連邦崩壊から30年、国際障害者年から40年。そして当協会編集の『ボランティア=参加する福祉』発刊からも40年になる。
 同書の発刊は1981年2月。「参加する福祉」のタイトルどおり、人間性豊かな社会の創造は制度的な保障だけでなく、直接的な市民参加との協働によって実現され、制度の改善にもソーシャルアクションを通じた市民参加が不可欠だとし、まさに市民の参加による福祉活動の創造について解説した。2000年までに14回の増刷を重ね、発行部数はのべ2万3200冊に上っている。

 同書はボランティア活動を市民的自由の実践と捉え、運動、参画、活動の3形態で整理。加えてボランティア活動を公私関係の視点から論述している点で画期的な啓発書となった。すなわち「福祉的課題は制度による対応と住民(市民)による対応の双方の対応によって解決され、また解決の道が探られている……これは『公』『私』関係の問題です」(注1)と記している。実際、同書の発行は、政府がボランティア活動推進政策を本格的に始めた時期だった。1973年、旧厚生省は都道府県・指定都市の社会福祉協議会(社協)が設置する「奉仕銀行」(注2)に補助を開始し、75年には市町村社協の「奉仕活動センター」への補助も始めた。
 この動きに対して、「行政の側からの翼賛化」「自助の強調」「制度的官僚制化や専門閉塞化」などの問題が起こりうることを指摘し、市民的自由を守る拠点としてボランティアセンターに言及している。いわく「行政まかせの『依存的な生き方』や、要求したり批判したりするだけの『たかり的な生き方』にはわれわれは反対します」「社会参加は権利であると同時に義務でもあります。それは一方で、自らの、あるいは市民の生活権、教育権や幸福追求権を擁護する活動であるとともに、一方で、地域社会に民主的で人間的な連帯を、自らの手で築こうとする活動だからです。ボランティア・センターは、そういった新しい生き方を追求しようとする市民の社会参加を保障するものとして登場して来ている」(注3)と、その役割を意味づけた。
 そこで、事業資金のすべてを行政に依存せず自主財源づくりに努力する「財政の自前主義」を土台にしつつ、「行政権から独立しつつ、かつ協働していく」ことが大切だとした。

 それから40年。同書発行後の85年に「ボラントピア事業」が始まり、社協ボランティアセンターの充実が進んだ。90年には企業の社会貢献活動が一挙に活発化し、企業と市民活動との連携も進んだ。さらに阪神・淡路大震災でボランティア活動への注目が高まり、NPOの概念が普及するとともに、企業とNPOの民民連携で民間活動としての自主性を高める可能性も広がった。
 一方で、公共的課題の解決に市場原理を活用する新自由主義の政策が広く導入され、介護保険制度や指定管理者制度などを通じて市民活動団体の中にも公共サービスを担う「事業者」が増えてきた。そこでは効率的に事業の成果をあげることが重視され、丁寧な対応が必要な市民参加に力を入れない団体も少なくない。

 同書ではボランティアセンターを「地域民主化」「住民自治」「コミュニティ創造」「主体的力量形成」の四つの面での「拠点」と位置づけた。この4点はセンターの役割であるとともに市民活動自体がもつ意味でもある。地域共生社会構想などでもボランティアへの期待が高まるなか、改めて公私関係を問いつつ、市民の参加でこそ民主的な社会が築けるのだということを確認したい。

(注1)同書35ページ。執筆は岡本榮一元大阪ボランティア協会理事長(現顧問)。
(注2)1962年に徳島県の小松島市社協が開設した「善意銀行」の取り組みが各地に広がる中、旧厚生省は73年に「奉仕銀行」設置の補助を開始。75年に補助対象名を「奉仕活動センター」とし、76年に「ボランティアセンター」に変更した。
(注3)同書271~272ページ。この部分も岡本元理事長が執筆。

【Volo(ウォロ)2021年8・9月号:掲載】

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