ボラ協のオピニオン―V時評―

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市民活動の歴史に学ぶ 『増補改訂版日本ボランティア・NPO・市民活動年表』刊行によせて

編集委員牧口 明

 初版の刊行から8年、2年余りの歳月をかけて『増補改訂版日本ボランティア・NPO・市民活動年表』が、当協会ボランタリズム研究所監修によりこの3月末に刊行された。
 初版は14年2月に刊行され、翌年3月に、日本NPO学会学会賞の最優秀賞(林雄二郎賞)に選ばれるなど、関係者に好意的な評価をいただいた。
 そうした実績もあり、今回の改訂版編纂に当たっては、設定された16の分野(注)に精通する研究者、活動家五十数人の参加を得ることができ、多角的な視点から掲載項目の吟味・選定がおこなわれた結果、総項目数延べ1万3千余(初版では1万余)、B5判1100ページもの大著となった(初版は748ページ)。
 年表全体を俯瞰して、「日本で市民(ボランティア)活動やNPO活動が活発化するのは第2次世界大戦後のことであり、それも、60年代後半以後である」との初版の見方は大きくは変わらないが、改訂版では「防災・災害救援・復興支援分野と支援行政分野の活動は90年代以後急速に増大している一方、ジェンダー・フェミニズム分野と反戦・平和分野の活動は減少している」との知見が示された。
 また支援行政分野の活動増加に関連して、「市民活動と行政との協働」という理念と実践が定着してきている半面、市民活動(団体)が「行政の下請け化している」との懸念も生まれている。
 近年の市民活動の特徴として上げられるのはSNSの活用である。ツイッターやFB、change.org等によって市民活動の声が多くの人に届けやすくなり、性被害を告発する「#MeToo」運動などはあっという間に世界に広がった。
 さらに、従来の市民活動が苦労してきた活動資金集め(ファンドレイジング)についても、ネットを媒介とする新しい手法が開発され、広がっている。
 そうした大きな流れを押さえた上でこの年表から学ぶ必要があると思われる点を幾つか上げたい。
 その一つは「歴史は続いている」ということである。
 私たちはともすれば、歴史の断面をエポック的に切り取って、例えば「足尾銅山鉱毒事件は明治期(あるいは明治・大正期)の出来事」といった形で理解しがちである。確かに、田中正造の活躍によって足尾銅山の鉱毒被害に人々の眼が向けられたのは明治期であったが、鉱毒被害はその後も続き、地元住民による補償要求と鉱害根絶の運動は1990年代まで断続的に続けられた。そして、先の東日本大震災の折りには鉱毒に汚染された物質が渡良瀬川に流失し、農業用水取水池で基準値を超える鉛が検出されたと言われている。
 また、水俣病は戦後の問題と見られがちであるが、実際には大正末期から魚の被害が出ていたことが知られており、患者への補償については未認定患者の問題が解決されずにいまだに裁判闘争が続けられている。こうした例は他にも少なからず見受けられる。
 二つ目の学びとして上げられるのは、日本で市民活動やNPO活動が活発化するのは1960年代後半以後のことであるという事実が示しているように、市民活動は民主主義の成熟と密接に関係しており、自由で、自立的な市民の存在を抜きにして市民活動は活発化しえないということである。
 三つ目に忘れてならないことは、明治期から太平洋戦争敗戦までの、市民活動についての制約が大きかった時代においても、私たちの先達が、社会のさまざまな不条理や課題の解決のため、また、より人間的で豊かな社会を築くために、実に多彩でボランタリーな活動に取り組んだということである。
 増補改訂版の「概観」に記されている通り、それらの人びとは、大日本帝国の「臣民」と位置付けられながらも、「自分たちが構成している社会をよりよくするために果敢に市民性を発揮」した。それら先人の思想や活動から学びうることは決して少なくはない。『年表』がその学びのきっかけとなることを願ってやまない。
 
(注)人権、社会福祉、医療・保健・衛生、教育・健全育成、文化、スポーツ・レクリエーション、ジェンダー・フェミニズム、まちづくり・地域づくり、防災・災害救援・復興支援、国際協力・国際交流・多文化共生、反戦・平和、環境・自然保護、消費者保護、支援組織、支援行政、企業の社会貢献の16分野。

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