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蔑ろにされる「地方自治の本旨」―情報公開と個人情報保護をめぐって

編集委員神野 武美

 「政治とカネ」が新聞の紙面をにぎわしている。多くは、政治団体や政党が毎年、自治省や都道府県選管に提出する政治資金収支報告書をめぐる問題である。政治献金の不記載、旧統一教会との関係など、政治家にとって不都合な事実が次々と明らかになっている。収支報告書は政治資金規正法によりもともと閲覧が可能だが、20年余り前は「コピー不可」であった。つまり「手書きで写せ」である。
 「手書きでは政治家を監視できない」と、コピーを求めて行政訴訟を起こした堺市の主婦野村孜子さんが昨年3月、84歳で亡くなった。情報公開運動団体「知る権利ネットワーク関西」(現在、筆者が代表)の一員であったが、彼女の活動は労組など組織に属さない完全なボランティアであった。裁判は、大阪高裁で原告が勝訴(1992年12月)したが、最高裁では敗訴(95年2月)。理由は、自治省政治資金課長が各都道府県選管に送った「写しの交付はできないと解する」という一片の通知にあった。収支報告書の取り扱いは「機関委任事務」、つまり「国の下請け仕事」だから「主務大臣等の明示の指示」に従え、というわけである。
 
 しかし、2000年4月の地方分権改革で「国と地方自治体は同等」となり、「地方自治の本旨」(憲法92条)にそぐわないとされた「機関委任事務」は廃止。被告だった大阪府選管は早速、コピーを解禁した。翌01年4月、情報公開法が「国民主権の理念にのっとり」(第1条)施行されると、全国でコピーが可能となり、今はホームページに載るようになった。まさに野村さんという「国民の不断の努力」(憲法12条)のたまものであろう。

 

 ところが、今年4月に改正個人情報保護法が施行され、全国の個人情報保護条例は「施行条例」化を迫られることになった。改正法の目的に「個人情報の有用性への配慮」が加えられ、先進自治体の条例にあった「本人取得原則」「要保護個人情報の収集禁止」を削除し、「適正取得義務」「保有制限」に緩和するよう求められたのである。さらに自治体の個人情報保護審議会の機能は「専門的知見に基づく意見を聴くことが特に必要である場合」に限定され、「市民参加」も難しくなった。
 問題は、法律上だけでなく、国の個人情報保護委員会が、自治体の権限や機能に関し「(自治体)固有の規律を設ける等は許容されない」と、厳しく制限する「ガイドライン」(「公的部門における個人情報の規律のガイドライン」2021年6月)を発したことにある。法的拘束力のない「技術的助言」にすぎないが、「許容されない」という文言には、デジタル社会における個人情報の「利活用」のために、国が法解釈を独占する強い意図が感じられる。

 

 背景には、自治体独自の個人情報保護条例がデジタル化の阻害要因になるとする「2000個問題(注1)」があるが、宇賀克也・東大名誉教授(現最高裁判事)は、自治体の「認知的先導性」に注目。「国より先に諸問題を認知し、先進的な取り組みを行う自治体を他の自治体が参照し、個人情報保護の水準をアップさせた」とし、「分権型個人情報保護法制の意義」(注2)を強調している。
 自治体は、国よりも量や多様性において多くの個人情報を保有している。個人名をA、B、Cなどに加工し保健医療の研究などに活用する「匿名加工情報」も、市民に近いところで透明性をもって論議した方がむしろ利活用が進むのではなかろうか。国が上から統制するやり方は、「政治資金収支報告書」のコピー問題と同様、市民の手から政治を遠ざけるだけである。

 

(注1)国の行政機関、独立行政法人、地方自治体(都道府県や市区町村等)それぞれに個人情報保護法制(条例)があり、その規定などがバラバラなため、医療、災害対策などの広域連携や個人データの利活用を阻害するとする議論。 (注2)宇賀克也『新・個人情報保護法の逐条解説』(有斐閣)、『行政法研究39号』巻頭言「個人情報保護法制の一元化」、ともに2021年。

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