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バーチャル空間に生まれるリアリティー―メタバースと市民活動の親和性

編集委員永井 美佳

 メタバースとは「仮想(バーチャル)空間」のことだが、日本総合研究所のレポート(注)では「インターネット上の仮想空間にアバター(自分の分身であるデジタルキャラクター)で参加し、他者とコミュニケーションすること」とされ、「ゲームや集会といったエンターテイメントに限らず、ビジネスの現場でも活用が進むことが期待される」とある。今後急速に普及しそうなメタバースと市民活動、とりわけ若者対象事業との親和性について、実践をもとに考察したい。
 
 大阪ボランティア協会は、15歳から22歳のさまざまな生きづらさを抱える子どもを対象として、自分たちの身近な地域課題を主体的に解決できる人材育成プログラムを、NPO法人若者国際支援協会と協働で開発した(大阪府共同募金会「地域の子どもの福祉のための助成」対象事業、2022年3月に1期・11月に2期開催、大阪と他地域より計53人参加)。
 主に高校生・大学生世代が、自分たちの身近な社会課題を解決していくビジョンを考え、実現するためのスキルを修得する「次世代ソーシャル・イノベーター育成プログラム(Next SIP)」(以下、SIP)である。全11のテーマ学習と最終プレゼンテーションで構成され、テーマ学習では各20分程度のオンデマンド講義を受け、週末夜間にメタバース上に集まる。メタバースでは60分間の設定で、少人数の対話セッションを通して学びを深める。参加者は実現したいプロジェクトや自分自身が直面している生きづらさと、それらを自らの力で解決していきたいという思いを言語化しながら、未来に向けたボランティア・市民活動のビジョンと実現のプロセスを明確にしていく。修了生は「SIP Cafe」というフォローアップの場でゆるやかなつながりを継続できる。SIPの実践を通して、メタバースに手応えと可能性を感じている。
 
 今回使ったメタバースは、「Gather Town」というバーチャルオフィスツール。見た目がレトロなロールプレイングゲーム風の二次元のオフィス空間に降り立ち、全体を見渡しながら自分のアバターの移動や簡単なリアクションができる。また、ウェブ会議システムのようにビデオやマイクのオン・オフ機能があり、チャットや資料の画面共有もできる。参加者はアバターを使ってメタバース空間内を自由に歩くことができる。アバター同士が近づくと声が聞こえ、離れると聞こえなくなる機能があるため、参加者は自由にグループを作り、グループ間の移動もできる。
 高校生・大学生たちは新しいツールへの適応力が高く、参加にあたってのつまずきや障壁等はなかった。むしろ、「顔を出さない方が本音を言いやすい」「声だけの方がかえって落ち着く」とメタバースを支持する声が多数寄せられた。実際のところ、自分が話すだけでなく相手の話もしっかりと聞き、さらに自分の思いや考えを返していた。半分リアル、半分バーチャルなバランスが、今の若者の感覚にフィットするのかもしれない。
 バーチャル空間は見た目に影響されにくく、年齢、性別、国籍、学歴などもそれほど気にならないため、自己開示や真剣な話がしやすい。ゆえに対面よりも関係性が深まりやすいように感じる。特にコミュニケーションを重視したプログラムの場合は、ウェブ会議システムよりバーチャルオフィスツールの方が適しているかもしれない。オンラインでの学習や集いの他、居場所、個別相談、グループ相談などにも使えそうだ。バーチャルオフィス空間のデザインをカスタマイズすれば、バーチャルボランティアセンターや市民活動センターの設置も可能だろう。
 市民活動を進めるにあたり、固定観念にとらわれず、日々進化する新たなツールを試して体感し、時代の感覚にあった方法を活動の場に取り入れていく。そんな挑戦を楽しみながらアップデートを続けていきたい。
 

(注)日本総合研究所先端技術ラボ「メタバースの概要と動向~ビジネスシーンでの活用に向けて~」2022年7月1日

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