ボラ協のオピニオン―V時評―

寄付する・会員になる

ボラ協を知る

ボランティアする・募る

学ぶ・深める

対話こそが、やはり大事

編集委員早瀬 昇

 AI(人工知能)による自動応答サービス、ChatGPTが話題だ。2022年11月の試作品公開後、改良が進み、コンピュータの創作とは思えない自然な表現で、レベルの高い解答が返ってくる。
 試しに筆者もボランティア活動の推進策について尋ねてみたら、「ボランティアの認知度を高める」「企業との連携」「地域団体やボランティア団体との連携」「若者向けの取り組み」「ボランティアのやりがいの創出」の5点を挙げ、それぞれ具体的に解説する解答が返ってきた。そこでやりがい創出の具体策について突っ込むと、「ボランティアの目標設定とフィードバックシステム」「ボランティアのスキルアップ支援」「ボランティアの交流会やイベント」「身近な社会課題に取り組む」「ボランティアの貢献を評価する制度」の見出しで、それぞれ数行の解説が返ってきた。
 わずか数秒でそれなりに体裁の整った解答が得られ、驚いた。
 
 インターネット上の膨大な文書データ(約45兆バイトとの解説もある)をもとに質問に関係する情報を検索し、自然な表現に整えて解答文を作成して返答する。その際、批評・批判につながる質問には「情報収集のみを行い、個人や組織についての評価や批評は行っていません」と解答するように設計されている。この仕組みを介した誹謗中傷を防いでいる。
 ただし過去に収集したデータに基づくため最新の動きを反映した解答はできず、そもそもネット情報に誤りがあっても、そのまま解答される場合もあるようだ。また、無関係だが似た名称のものを関連付けることもあるためか、とんちんかんな解答が返ってくることもある。
 個別の項目ごとに情報を検索してきた従来のインターネット利用を抜本的に変え、総括的な質問をするだけで解答が得られる便利さには感嘆する。ただし、その解答が正答であるかどうかを見極める力が利用者に求められる。もともと一定の知識を持っている領域で利用しないと、回答が正しいかどうかを判断できない。
 
 実はSNS上で広がる「炎上」も、このインターネット情報を起点とすることが多い。この場合、攻撃する相手への批判的な視点から情報検索が行われるが、かなり以前のものも含め、広範囲かつ深く情報を探し、得られた情報が「証拠」とされ、批判が展開される。リツイートやシェアなどで拡散されるが、時には一人が複数の発信元を装って同内容の批判を発信。多数の発信があるように見せることで、さらに拡散が広がる。
 この時、発信者は批判する相手に直接問い合わせて事実を確認することは、まずない。匿名で批判するためインターネット上の情報だけに頼り、それゆえ情報の解釈を間違えるとデマの拡散が起こる。
 問題は、こうした風評の流布を事実と誤認する人がでてしまうことだ。炎上が起こっている事態をどう見るか? ここでも情報を見極める力が求められる。

 

 事実か否か判断できない場合、とても容易な対応策は、炎上を起こされている当事者自身に尋ねることだ。要は「対話」だ。
 名前を明かして疑問点を尋ね、おかしいと思えば改善を求め、逆に誤報が流布されていると分かれば、当事者に代わって周囲に説明する。ただし、その際、インターネット上の発信は批判者の攻撃対象になりかねないので要注意だ。
 前々号本誌「この人に」に登場いただいた谷山博史氏が「戦争の反対は平和ではない。対話だ」と語っていた。かねてから戦争は、平和の維持を理由に始められる。対立と分断を防ぐには対話しかないし、対話によって新たな視点や気づきも得られる。
 対話を経ていない発信を信じてはならない。そして、対話にこだわることこそを、大切にしたい。

ボラ協のオピニオン―V時評―

  • 2024.10

    「新しい生活困難層」の拡大と体験格差〜体験につなぐ支援を〜

    編集委員 筒井 のり子

  • 2024.10

    再考「ポリコレ」の有用性

    編集委員 増田 宏幸