障害者差別撤廃へさらなる取り組みを ―差別解消法制定10年に当たって
2013年に制定された障害者差別解消法がこの6月26日に公布満10年を迎える(施行から7年)。
この法律は、06年の国連総会で採択された障害者権利条約を批准するための国内法整備の柱として制定されたもので、この制定を受けて14年1月に批准書を提出、同年2月19日から日本での条約の効力が発生した。
これに関連して昨年8月22~23日、国連障害者権利委員会による条約の履行状況についての初審査がおこなわれた。9月9日に発表された「総括所見」では、「温情主義的アプローチ(注)による障害関連の国内法制及び政策と、本条約に含まれる障害の人権モデルとが調和していないこと」(外務省仮訳を筆者が一部修正)への懸念が示されるとともに日本政府に対する92項目の是正勧告がおこなわれた。そのすべてが差別解消法を対象としたものではないが、直接・間接の対象であることは言うまでもない。
この法律は、障害者基本法第4条の「差別の禁止」規定を受けて、「全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有する」との認識のもと、「全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資すること」を目的としている。
その上で具体的な差別に当たる行為として「差別的取扱い」と「合理的配慮の不提供」をあげているが、後者の「合理的配慮の不提供」は、権利条約で新たな差別として規定されたものである。その具体例として、法に基づき策定された基本方針では「試験を受ける際に筆記が困難なためデジタル機器の使用を求める申出があった場合に、(略)必要な調整を行うことなく一律に対応を断ること」などを例示している。
この「合理的配慮の提供」は民間事業者の場合、法制定時には努力義務とされていたが、21年6月の改定により法的義務とされた(施行は24年4月)。
先の勧告に対して障害者権利委員会からは、「28年2月20日まで」に改善報告の提出が求められている。すでにDPI(障害者インターナショナル)など国内当事者団体による、勧告に基づく法や制度の改正に向けての動きが始まっているが、主要な課題としては以下のような項目があげられる。
①差別を受けた際の相談窓口が曖昧であり、相談をしても関係機関をたらいまわしにされて結局解決しない。→この問題に関しては権利委員会の勧告で「差別の被害者のために、司法及び行政手続を含む、利用しやすい効果的な仕組みを設置すること」とされており、当事者団体からは「ワンストップ相談窓口」の創設が提案されている。
②差別の定義が不十分。→「間接差別」「関連差別」「ハラスメント」「複合差別」が明確には含まれていないので、明確化することが必要。
③法の対象範囲が不十分。→家族など関係者への差別(関係者差別)が含まれていないので、拡充が必要。
④インクルーシブ(社会的包摂)教育の推進。→日本ではいまだに「特別支援教育」という名の分離教育が一般的になされているが、権利委員会の勧告では「全ての障害のある児童に対して、個別の教育要件を満たし、インクルーシブ教育を確保するために合理的配慮を保障すること」とされている。
他にも、障害を理由としてさまざまな資格の取得や公職に就くことを制限される「欠格条項」の問題や、精神医療におけるさまざまな人権侵害、「人権の保護及び促進のための国内機構の地位に関する原則(パリ原則)」に適合する国内人権組織が存在しない、といった問題など課題は多い。28年2月までにどの程度の改善が図られるか、当事者とともに注視していきたい。
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