ボラ協のオピニオン―V時評―

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隣にあるジャニーズ問題

編集委員筒井 のり子

 ジャニーズ性加害問題の波紋が広がり続けている。
 ジャニーズ事務所が設置した「外部専門家による再発防止特別チーム」が8月29日に発表した調査報告書によると、ジャニー喜多川氏の性加害は、1950年代から2010年代半ばまでの間にほぼ満遍なく認められ、被害者は少なく見積もっても数百人にのぼるという。被害者が受けた苦痛、精神的ダメージは計り知れない。
 元所属タレントによる最初の告発は約35年前。その後も複数の告発本が出版された。99年には週刊文春がキャンペーン報道を行っている。喜多川氏とジャニーズ事務所が名誉毀損で提訴するも、03年に東京高裁がセクハラ被害の真実性を認めた。最高裁も上告を棄却し04年に高裁判決が確定している。しかし、新聞やテレビで取り上げられることはほぼなかった。
 20年後に英国BBCによる氏の性加害を題材にした長編ドキュメンタリー(23年3月)が放映され、被害者が続けて証言するまで、なぜ喜多川氏の行為は放置されてきたのか。

 

 事務所内のスタッフや所属タレント、また取引関係者の間でも「なんとなく知っていた」「うわさはあった」という人は多い。9月7日に行われた事務所の記者会見においても、そうした発言が聞かれた。
 未成年者に対するこれだけの性犯罪が放置されてきた背景には、元副社長(姉)による徹底した隠蔽行為、同族経営の弊害、絶対的権力者に逆らえないという空気、事務所としての不作為、利権によるメディアコントロール、忖度による報道の自粛などが挙げられる。加えて、所属タレントによる喜多川氏の好印象づくり(優しい、気さく、お父さんのよう)も、仮に性加害の実態を知った上での発言であれば、経営陣だけではなく責任の一端を担っていると言えるだろう。
 
 こうしたことは、芸能界の中の特殊な出来事だろうか。いや、私たちの周りで起きている(起きうる)と認識すべきだろう。
 実際、非常によく似た構図が社会福祉業界でも起きている。
 20年11月、「社会福祉法人グロー」(滋賀県)および「社会福祉法人愛成会」(東京都)の元職員・幹部職員が、当時グロー理事長で愛成会理事の北岡賢剛氏とグローに対して、10年以上にわたる性暴力とハラスメントについて、東京地裁に提訴した。21年4月から裁判が始まっており、いよいよ23年10月から証人尋問が開始される(注)。
 係争中のため詳細には触れないが、北岡氏は障害者福祉関係者の間では知らない人はいないほどの実力者である。「地域に開かれた施設」を日本中に根付かせるために奔走し、障害福祉の改革、質の向上に貢献してきた。厚生労働省や内閣府の審議会委員を歴任するなど、官僚や政治家との強いパイプを築いてきた。そのため、法人内で権力が集中し、氏に物申すことができない空気がまん延していたという。
 ジャニーズ事務所同様に、法人としての組織体制の問題が大きいが、「なんとなく知っていた」「気づいていた」人が多いというのもよく似ている。
 
 最近、「アクティブ・バイスタンダー」という考え方が話題になっている。直訳すれば「行動する傍観者」である。性暴⼒やハラスメントが起こった、もしくは起こりそうな場⾯に居合わせたときに、ただ⾒ているのではなく、被害を軽減するために第三者として自分ができる⾏動をとる⼈、という意味だ。
 もちろん、性暴力やハラスメントは第三者が存在しない時に行われることも多い。しかし、仮にそうした事態に「気づいている」「うわさを知っている」という場合、どのような行動を取るのかは、私たち一人一人に突きつけられる刃だ。「きちんと見ようとしないこと」、それ自体の責任も認識する必要があるだろう。

 

(注)「Dignity For All 社会福祉法人役員による性暴力・ハラスメント裁判の原告を支える会」ウェブサイトより。

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