ボラ協のオピニオン―V時評―

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新聞報道を「市民目線」で再構築しよう

編集委員神野 武美

筆者は1976年から36年余り、新聞や週刊誌の第一線記者であった。今日、新聞はその発行部数の大幅な減少にさらされている。テレビも広告費の減収から、お金と時間をかけて丁寧に作った番組が減った。新聞もテレビも、「政治資金のキックバック」や「大谷翔平」など、飛びつきやすい話題ばかりを集中豪雨的に伝えるだけで、本質に切り込む報道があまりにも少ない。
 記者クラブ中心の従来型の報道は、「発表」に頼るだけの記事と、それ以外は政治家のAとBが「付いた」「離れた」など「どうでもよい情報」が幅を利かしている。傍観者としての市民の「街の声」を集めるのがせいぜいで、市民の主体的な取り組みに関心を持つ記者は少なく、「デモをしても記者はだれも来ない」と言われている。「オンブズマン」などの市民が情報公開制度を使って発掘した「特ダネ」には飛びつくが、報道機関独自の取材力と分析力を発揮して本質をえぐるような「調査報道」の能力はすっかり衰えている。

 

 インターネットで検索すると、雑誌やネットの記事の方が「本質に迫っている」と感じることがあ IT mediaビジネスライン(長浜淳之介記者、2023年12月21日配信)は「人口も観光資源も十分なのになぜ?」と題し、大阪府南河内地方で運行していた金剛バスの廃業(同12月20日付)を取り上げた。新聞やテレビは、「バス運転手の人手不足」「利用者の減少」を主な理由に挙げていたが、この記事は、丁寧に現地を歩いて取材し、「根深すぎる理由」を報告している。
 南河内地方の観光資源は、役行者ゆかりの金剛山、聖徳太子廟などの古墳群、近つ飛鳥博物館など豊富であり、歴史探訪やハイキング、登山など身近で安価なレクリエーションのできる地域である。にもかかわらず、府市町村とも、バス利用の観光ルートの新規開拓や魅力の発見といった観光需要を喚起する努力が不足し、そのために地域の活力が低下していると分析している。金剛山ロープウェイが19年に休止し、さらに、バス路線の廃止・減便ではマイナス効果しか生まれない。この記事は、大規模な投資でなくても、観光需要の減少を食い止める努力さえあれば、バス会社の廃業を避けられたことを示唆している。
 
 一方、大阪・関西万博や大阪IR(統合型リゾート)には巨額の投資が行われる。だが、その「効果」や「影響」を詳細に分析した報道を目にしたことがない。例えば、344億円をかける直径2キロの「木造リング大屋根」は、木材使用量、産地などの基本的な情報すら聞こえてこない。国や大阪府市が「国産材を使うので国内林業の再生に寄与する」などとアピールしてもよさそうだ。そこで、大阪府に情報公開請求してみると、23年11月9日付の国と府市万博推進局とのメールのやりとりなど黒塗りだらけの6ページ分の文書が公開された。具体的なことは、木材の使用量が約2万立方メートル、海外産アカマツが使われている程度しかわからない。とはいえ文面からは、この大工事について国や府市が周到に検討を重ねた形跡は見られず、万博協会任せの実態が明らかになった。情報公開制度を使うと、事業の問題点だけでなく、透明性や手続きの適正さなど本質を知ることができるのである。

 

 「市民参加」は民主主義の基本である。それは、市民それぞれが持つ職能や知恵、経験に基づいて意見や提案ができることである。新聞やテレビは、現地取材や情報公開請求を駆使し、主権者である市民の目線に立って、参加に役立つ「オープンデータ」を取得し提供することが重要な使命の一つである。

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