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「こども大綱」策定を受けこども・若者の権利擁護の取り組みを ―児童の権利条約発効30年に当たって

編集委員牧口 明

 2023年4月に施行されたこども基本法の規定により、「こどもまんなか社会」を掲げる「こども大綱」が同年12月22日に閣議決定された。この6月には実行計画の策定と予算措置が講じられる予定だ。併せて、その実施主体となるこども家庭庁も昨年4月の発足から1年を迎えた。
 こども基本法の制定は、日本で児童の権利条約が発効した1994年5月以来数度にわたる、国連子どもの権利委員会からの「子どもの権利に関する包括的な法律の制定」を促す勧告にやっと応えたものと言える(この11月には委員会の審査が予定されている)。

 

 日本政府はこの間、児童福祉法や教育基本法に加え、児童ポルノ禁止法、児童虐待防止法や子どもの貧困対策法の制定などを理由に「包括的な法律制定の必要はない」との立場を取り続けてきたが、児童虐待やいじめ、体罰、貧困、孤立、不登校など、こどもを取り巻くさまざまな課題の深刻化を背景に、少子化対策の意味合いからも基本法制定と大綱策定は避けて通れないものだった。
 その内容を見ると、基本法では、第1条・目的に「児童の権利に関する条約の精神にのっとり」との文言が記されるとともに、第3条・基本理念では、児童の権利条約に掲げられた「差別の禁止」「生命、生存及び発達に対する権利」「児童の意見の尊重」「児童の最善の利益」という4原則に対応する理念が示された。
 加えて11条では、国や自治体がこども施策を策定、実施、評価する際には「施策の対象となるこども又はこどもを養育する者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずる」とされている(意見表明権)。
 次に大綱では、こども施策に関する基本的な方針のなかで「こども・若者を権利の主体として認識し、その多様な人格・個性を尊重し、(略)こども・若者の今とこれからの最善の利益を図る」「こどもや若者、子育て当事者の視点を尊重し、(略)対話しながら、ともに進めていく」と記している。日本政府の政策文書にこどもが「権利の主体」と明記されたのは今回が初めてではないかと思われる。
 さらに、施策に関する重要事項のはじめに「こども・若者が権利の主体であることの社会全体での共有」が掲げられていることも評価できる。また貧困対策、児童虐待防止対策、いじめ防止等と併せて、「校則の見直し」と「体罰や不適切な指導の防止」があげられていることも注目に値する。基本法や大綱の趣旨を教育現場にどれほど浸透させられるか、こども家庭庁の真価が問われる。
 また大綱では、「こどもまんなか社会の実現に向けた数値目標」が示されており、例えば、現在20.3%である「こども政策に関して自身の意見が聴いてもらえていると思うこども・若者の割合」や、現在27.3%の「結婚、妊娠、こども・子育てに温かい社会の実現に向かっていると思う人の割合」をいずれも70%に引き上げるなどとしている。
 基本法第3条・基本理念の「こどもの養育については、家庭を基本として行われ、父母その他の保護者が第一義的責任を有する」との文言や、担当庁の名称に「家庭」が入ったことに対する批判などもあるが、関係者の間ではおおむね前向きに評価する声が大きいようだ。
 
 5年後に予定されている見直しに向けた課題として、まず第1に「独立した立場でこどもの権利擁護に当たる機関(こどもコミッショナー)」の設置、二つ目に、その内容について多少でも知っている大人が17%弱という児童の権利条約の認知度を高めるとともに、基本法、大綱の周知を図ること、三つ目に、「こども・若者の意見表明権」の実効性を高めるための制度的取り組み、四つ目に、市民社会組織との積極的な連携などをあげることができるだろう。
 大綱に示された「こども・若者は権利の主体」との考え方を社会に広げ、定着させるための取り組みが私たちに求められている。

 

 注)本稿では、児童・子どもを表す用語として「こども」「子ども」「児童」という表記が混在しているが、これは各法律等の表記による。地の文では「こども基本法」「こども大綱」にならって「こども」とした。

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