ボラ協のオピニオン―V時評―

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経済的な利益追求より民主主義の基盤整備を

編集委員神野 武美

 選挙のたびに政党の公約は、減税、給付金、助成金、教育・福祉の充実といった国民に経済的利益をもたらす訴えが中心になる。かつての公約は、高度成長の成果である税収増を国民に還元する「おすそわけ」だったが、低成長時代では、「景気浮揚」の手段という意味に転化し、膨大な財政赤字と格差拡大という結果を生んでいる。
 政府は、情報化、デジタル化による成長戦略の一環として、国民個人に健康保険証のマイナンバーカード化、企業には電子帳簿保存法への対応などを要求した。ところが、政府自身の「情報化」はお寒い状態だ。情報公開法(2001年施行)、公文書管理法(11年施行)がありながら、森友・加計問題での情報の隠蔽や改ざん、集団的自衛権行使に関する閣議決定(14年)の協議記録の「不存在」、「軽微な公文書(保存期間1年未満)」を理由にした文書破棄、「事業主体が民間」を理由に多額の公費を使う開発やイベントなどの事業情報が公開の「対象外」になるなど、自治体レベルも含め「抜け穴」くぐりのオンパレードである。

 

 デジタル化すれば、政治資金収支報告書の「名寄せ」が可能になり政治の透明性が増し、「行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け検証できる文書の作成」(公文書管理法4条)も容易になるはずが、それらは遅々として進まない。
 法制定時の国会でも、抜け穴やサボタージュは懸念されていた。憲法上の権利とされる「知る権利」は、「最高裁判例に無い」などの理由で情報公開法に明記されなかったが、衆参両院の委員会附帯決議(1999年)は「明記を引き続き検討」するとした。公文書管理法の付帯決議(2009年)も「軽微性を理由とした恣意的な運用がされないよう万全を期す」よう求め、民主党政権下の11年、「知る権利」の保障の明記、開示手数料の廃止、裁判官が非公開部分の情報を直接検証できる「インカメラ審理」などを盛り込んだ情報公開法改正案が国会に提出されたが、同年3月の東日本大震災への対応が優先され、審議未了に終わっている。
 
 デジタル化の進展は、消費者(国民)の個人情報を集めてその行動を誘導する企業の登場で、消費者のリスクも増大する。ところが、デジタル社会形成基本法(21年施行)も、改正個人情報保護法(22年施行)も、個人情報を利活用した「国際競争力の強化」「活力ある経済社会」などが上位に置かれ、「個人の権利利益の保護」は追加的に述べられるに過ぎない。憲法上の人権としての「自己情報コントロール権」が明記されず、「個人の権利利益」も、国の個人情報保護委員会が示したガイドラインにとどまっている。筆者も最近、ネット上での「執拗な勧誘」「望まない形でのサービスの更新」「解約の困難さ」といった「ダークパターン」(注)を経験した。欧米では規制が強化され、巨額な制裁金が課されるなど違法とされるものが、日本ではまかり通るのである。

 

 付帯決議などを見れば、「知る権利」「公文書の適正管理と保存」「自己情報コントロール権」は「民主主義の標準装備」と考えるべきものである。それらを備えなければ、個人情報を広告・宣伝に使い、マネーゲームにものを言わせる企業が優位に立ち、行政や政治との癒着ももたらしかねない。健全な事業者の市場シェアを奪い、競争上のゆがみが生じる。こうした経済構造が企業を安易な利益追求に走らせ、日本経済の基礎体力を奪い、最近の株価高騰と実質賃金水準の低迷の同時進行といった矛盾を来す根本にあるのではないか。
 
(注)ウェブサイトの表記などで消費者が気づかないうちに不利な決定に誘導すること。カライスコス・アントニオス「ダークパターン 米はAdobe提訴 日本は包括規制に弱点」(ウェブメディア「日経デジタルガバナンス」、2024年6月27日記事)より。
参考:右崎正博『情報公開法制の論点‐公文書管理、情報公開、個人情報保護』日本評論社、2024年5月

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